峯村:もうほとんど困難しかなかったです(笑)。会見はおっしゃったような大本営発表そのものなので、まず適当に聞き流しておきます。その代わり私がよくやったのは、会見場のトイレに潜んでいて、会見した当局者が必ずトイレに来るのでそれを待ち伏せして、「実際どうなんですか」と話を聞いたりとかっていうのはよくやっていました。

荻上:最近そういったシーンを韓国の映画で見ましたけど。

峯村:あ、そうですか(笑)。

荻上:実際にやってるんですね。

峯村:やってますね。今思うとこのトイレ作戦はわりとうまくいったかなと思います。そこで立ち話をしてたら向こうも興味をもってくれて、じゃ、ちょっと携帯番号交換しましょうか、みたいになったケースもありました。

荻上:ただ当然ながら、政治関係者も自分がリークされるんじゃないかということで、記者を名乗っている人に対して疑うこともあるでしょうし、おいそれと本当にいろんな情報を伝えることには慎重であり続けるわけですよね。

峯村:そうですね。やはりリークというか、彼らが書いてほしい情報をそのまま鵜呑みにして書いてしまうことにいちばん気を付けていました。そうすると、いいように利用されてしまう。これは中国だけに限らずアメリカもそうです。

荻上:日本だってそうですよね。派閥闘争に過ぎないものを観測記事だけ書かせたり、表に出させたりすることによって特定の政治家への批判の目をそむけるとか、ありますよね。

峯村:はい。だから「迷ったらやめる」ということを私は原則にしていました。

荻上:慎重でなければいけないというのは、戦場取材も政治取材もそうですけど、中国のような場所でもそうした態度が求められるわけですよね。

峯村:そう思います。戦場取材というのはいい例だなと思います。ある意味、ミサイルは飛ばないんですが、権力闘争という名の戦場の取材をしているので、そこでは命をかけている人たちに取材しているので、慎重のうえにも慎重を重ねて取材するべきだなと思います。

荻上チキ(おぎうえ・ちき)
評論家。1981年、兵庫県出身。TBSラジオ「荻上チキ・Session-22」(平日22時~)のパーソナリティーを務める。メディア論を中心に、政治経済、社会問題、文化現象まで幅広く論じる。「シノドス」など複数のウェブメディアの運営に携わる。著書『ウェブ炎上』『ネットいじめ』『僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか』『彼女たちの売春』など。

峯村健司(みねむら・けんじ)
朝日新聞国際報道部記者。1997年入社。中国総局員(北京勤務)、ハーバード大学フェアバンクセンター中国研究所客員研究員などを経て、アメリカ総局員(ワシントン勤務)。ボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『十三億分の一の男』『宿命 習近平闘争秘史』など。