幡野:それは緩和ケアに近いですね。

大塚:僕の専門はアトピー性皮膚炎とメラノーマですが、アトピーは慢性化する方も多い。またメラノーマは希少がんのひとつで患者数が少ないし、一人に対して時間を割くことができるんです。だから緩和ケアのような付き合い方になりますよね。それでも医者に対して本音を言っているかというのは、よほど時間をかけて耳を澄ませないとわからないです。

幡野:このあいだ、僕の診察の前に印象的な会話を目にしました。60~70代の夫婦が、セカンドオピニオンを申し出るときの会話を練習していたんです。旦那さんが患者さんで、奥さんが医者の役をやって、セリフをどういう言い方にするかとかをロールプレーしていたんです(笑)。いやいや、サクッと言えばいいじゃないかと。

大塚:セカンドオピニオンは緊張する患者さんが多いですね。僕のところから別の医者にセカンドオピニオンをとりたいという人も、「こんなことお願いしたら失礼かもしれませんが」「先生のことを決して信頼していないわけではないんですが」とか枕詞が必ず付いてきます。

幡野:実際、昔はセカンドオピニオンで不快感をあらわにする医者はいたんですか?

大塚:まあ、セカンドオピニオンに対して違和感を持つ上の世代の医者がいるのは事実です。患者側も、年配の方は医者のことを「お医者さま」と呼んだりしますよね。若い世代からすると医者は単なる職業のひとつと思う人も多い。

幡野:医者にしても患者にしても、世代によって医療との向き合い方が違っているなと感じますね。僕は最近、ほかの医者と話すことがあって、主治医から与えられたものとは別の薬を勧められたんですよ。それで主治医に「この薬を使いたいんです」と話したときは確かに緊張しました。出しゃばったまねをしていないだろうか、と。でも、お互いに気を使ってもあまりいいことはないですよね。

大塚:失礼な態度をとるのは問題だと思いますけど、治療方針は一緒に決めないと。患者さんの価値観がわからないと、こちらも治療の選択肢を提供できないんです。事情があって一日でも長く生きたいという人もいれば、痛みをなくしたいという人もいますから。

 幡野さんは、死についてはどう思いますか。診察室では死に関する話はいまだタブーに近い。それが本音を言えないことの原因だとも僕は思っているんです。

幡野:病院はたくさんの人を看取っているので、医者は死に対して言えることがたくさんあるのかなと僕は思っていたのですが、いざ対面してみると、医者は死に対してすごく弱いですよね。怖れている。

 その反動で生きることにすごく力を注いでいて、助かる人はいいのだけれど、助からない・治らない人が置いてけぼりになってしまっている。医者ほど死に弱い職種はないと思っています。看護師のほうがよほど死について考えているんじゃないかな。

大塚:医者は助けられなかった患者を経験して、次はどうしたら助けられるかを考えることが多いですね。つまり、医者は死を避けるように考えてきたため、死そのものに対して弱くなっているんでしょうね。

◯大塚篤司(おおつか・あつし)
京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医。がん治療認定医。AERA dot.での連載をまとめた『「この中にお医者さんいますか?」に皮膚科医が……心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版)が発売中。

○幡野広志(はたの・ひろし)
写真家。2017年に多発性骨髄腫を発病し、余命宣告を受ける。著書に『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP研究所)『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』(ポプラ社)などがある。

(構成/白石 圭)