そして、水卜アナが体現した女子アナ像が斬新だったため、従来の王道的女子アナ像がかすんでしまった。それだけでなく、負の記号をまとうようになったのかもしれない。

 たとえば、01年のドラマ「女子アナ。」は「生体肝」を「性感帯」と読み間違えるようなドジなヒロイン(水野美紀)が、仕事に恋に一生懸命頑張る物語だった。しかし、今年放送されたドラマ「デジタル・タトゥー」では、そんなきれいごとは描かれない。主人公の娘(唐田えりか)がミスコン優勝から女子アナを目指すものの、卒業後はボランティアをやると公言していたことが叩かれたり、捨てた彼氏にリベンジポルノされて内定を取り消されそうになったりと散々な目に遭う。新人アナの過去がスキャンダル化することはちょくちょくあるから、作り手はそのリアリティを活用したのだろう。

 ただ、その手のあざとさもときに感じさせてくれるのが、女子アナの妙味である。裏表がなさそう、などと評されたりする水卜アナの異能は評価したいが、そういう女子アナばかりではちょっと味気ない。こちらとしては、下世話なところも含めていろいろ想像をたくましくしたいのだ。もちろん、マジメに報道一辺倒の人もいていいが、フェロモンを武器に華をふりまき、大物アスリートと結婚するような人もいてほしいのである。

 そういう意味で、ちょっと期待したいのが弘中綾香アナだ。水卜アナが殿堂入りして対象外となった昨年の「好きな女性アナウンサーランキング」では2位に躍進。「激レアさんを連れてきた。」での意外な毒舌などが評価されたかたちだ。ツンデレならぬ「デレツン」ぶりは、これまでの女子アナ像を大きく変える可能性もある。ただ、その可愛すぎるルックスは両刃の剣だろう。同性からの「大嫌い」を「大好き」にする松田聖子的転回は容易なことではない。

 いずれにせよ、女子アナという文化はメディアや世間が一体となって生み出したものだ。そこには日本的な美意識やジェンダー感覚が深く関わっていて、だからこそ、男も女もその中間の人たちも面白く鑑賞してきた。そんな文化を簡単に終わらせてはもったいない。気になるのはメディアに元気がなく、どこか萎縮しているようにも見えることだ。かつてのように持ち上げたり落としたりしながら、女子アナを鍛えてほしいものである。

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メンタルの強さも現役最強