華やかな舞台が似合う氷川きよし (c)朝日新聞社
華やかな舞台が似合う氷川きよし (c)朝日新聞社

「いまだに“ズンドコの人”って言われる」 

【写真】ポスト氷川きよし? 現役大学生演歌歌手、辰巳ゆうと

 6月3日、都内で開かれたニューアルバム「新・演歌名曲コレクション9 ‐大丈夫・最上の船頭‐」の発売記念イベントで氷川きよしが口にした言葉だ。代表作「きよしのズンドコ節」に絡めての冗談だが、自分はそれだけの歌手ではないという本気の矜持も混じっているのだろう。そして実際、彼は今、別の顔で音楽ファンをザワつかせている。きっかけは、1本の動画だ。

 ライブビデオ「氷川きよしスペシャル・コンサート2018 きよしこの夜Vol.18」に収録された「限界突破×サバイバー」を日本コロムビアがYouTubeにあげたところ、約10日で100万再生回数を突破。ツイッターのトレンドワードでは1位(世界でも4位)になった。この曲はアニメ「ドラゴンボール超」の主題歌で、演歌ではなくロックだ。氷川はこれを、ヴィジュアル系シンガーのような衣裳とメイクで妖しくハードに歌い、激しくシャウト。ファン以外の人たちも騒然とさせた。

 テレビでは、5月25日の「ミュージックフェア」でアニソン歌手の宮野真守とともに披露。前出のイベントでも、紫色の着物でヘッドバンキングもおりまぜながら熱唱した。そして、英国から来たという女性ファンに話しかけ、

「言葉が分からなくても伝わるものがあるのかな。ヨーロッパでも歌えたら。和製レディー・ガガを目指して」

 と、ゴキゲンだったという。

 とまあ、デビュー20周年にして、いったいどうしたの?と聞きたくなるような新展開なのだが――。その理由を考えるうえで、忘れてはいけないことがある。彼がもともと「キワモノ」として世に出たということだ。

■キャッチコピーは「平成の股旅野郎」

「箱根八里の半次郎」でデビューした2000年当時、演歌はジリ貧で古典芸能みたいになりつつあり、新たなスターが誕生する気配などなかった。ビートたけしが芸名をつけたという話題性はあっても「平成の股旅野郎」というキャッチコピーには企画モノっぽさしか感じなかったものだ。

 たとえばこの時期、ライターの藤木TDCによるこんな評がある。

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宝泉薫

宝泉薫

1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』『宝島30』『テレビブロス』などに執筆する。著書に『平成の死 追悼は生きる糧』『平成「一発屋」見聞録』『文春ムック あのアイドルがなぜヌードに』など

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