例えば、

「浮気して、どんな気持ちだったの?」

 とか

「何が背中を押したの?」

 と聞きます。答えを聞いても、反論せずに、さらにHowとWhatで聞けるのだとしたら、その人はほんとに相手のことをわかりたいのだろうと思いますが、そういうやり取りはなかなか見かけません。相手に対して怒りの感情を持っている状態で、それをちょっと横において、相手の話を聞くのは誰にとっても難しいことです。

 もう一度、小学生のいたずらの例に立ち返ってみましょう。

「何でこんないたずらをしたんだ!」

 に対する正解は、黙ってうつむいて

「ごめんなさい。もう二度としません」

 と言うことのはずなのに、多くの場合、人はそういうシンプルなやり取りをしないと書きました。それがどういうことなのかもう少し考えてみます。

 先生の立場に立つと、毎度いたずらしている子が、またいたずらをしたとき、すぐに「ごめんなさい。もう二度としません」と言っても、「よし」という気持ちにならないですよね。その子が問い詰められて精神的な重圧を十分感じたと先生が思ってからでないと、お説教は終わりません。別の言い方をすれば、いたずらをされた側の痛みを分かってないと思える状況で話を終わらせるのは困難なのです。この精神的な重圧をかけるために使われやすい言葉が、正解のない「なぜ」なのです。

 しかし、この正解のない「なぜ」は、混乱を招いてしまいます。いたずらっ子は、単にこの苦しい状況をどうやって切り抜けるかという方向に意識が向きますし、先生側は相手の痛みを分からせることよりも、詰問してその子を追い詰めることに意識が向いてしまいます。これでは、単なる苦境脱出ゲームです。

 本当に理由を知りたいだけの部分や、相手を詰問したいという気持ちよりも自分の痛みを分かってほしいという気持ちが大きいのであれば、「なぜ」と問うよりも、別なやり方が必要です。

「なぜ」をNGワードにすると、そう言いたくなった時に、自分の本当の気持ちに気が付くかもしれません。(文/西澤寿樹)

※事例は事実をもとに再構成しています

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西澤寿樹

西澤寿樹

西澤寿樹(にしざわ・としき)/1964年、長野県生まれ。臨床心理士、カウンセラー。女性と夫婦のためのカウンセリングルーム「@はあと・くりにっく」(東京・渋谷)で多くのカップルから相談を受ける。経営者、医療関係者、アーティスト等のクライアントを多く抱える。 慶應義塾大学経営管理研究科修士課程修了、青山学院大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程単位取得退学。戦略コンサルティング会社、証券会社勤務を経て現職

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