「愛情ホルモン」とも言われている、オキシトシンにまつわる興味深い研究もあります。2015年4月、麻布大学の永澤氏らは、見つめ合うほどオキシトシンというホルモンを介してヒトとイヌの情が深まるようであると報告しました。ヒト同士の感情的なつながりはホルモンであるオキシトシンを介して見つめ合うほどに強まることがわかっていますが、同様の仕組みがヒトとイヌの間にも見られたと言うのです。
イヌはヒトの感情を認識できる、という研究結果もありました。15年3月、オーストリアのウィーン医科大学のMuller 氏らは、イヌはヒトの顔に示された感情を識別できることを報告しました。興味深いことに、怒っている顔を選ぶよりも、幸せな顔を選ぶ方が、より早く習得できたといいます。イヌは怒っている顔に近づくのはどうやら嫌なようだと筆者らは考察しています。怒っている顔に近づくのは、私たち人間も嫌ですよね。
さて、ニューズウィーク誌において「かわいいものに夢中になるのは人類共通の本能だとしても、それを文化にしたのは日本だけだ」と書かれるほど、世界に広がりをみせている日本発の「kawaii(かわいい)文化」。そんな子犬や子猫といった「kawaii」ものを見ると集中力が増して仕事がはかどりうることを示した論文もあります。
12年7月、広島大学の入戸野氏らは、大学生132名を対象に子犬や子猫といった幼い動物の写真7枚を好きな順番に並び換えるという作業を1分半行うという調査を行ったところ、手先の器用さを必要とする課題や、指定された数字を数列から探して数える課題の成績が、写真を見る前と比べてそれぞれ44%、16%向上したことを報告しました。「かわいい」という感情によって対象に接近して詳しく知ろうとため、細部に注意を集中するという効果が生じたのではないかと考えられるというのです。集中したいときは、この方法を試してみてもいいかもしれません。
今回ご紹介した論文はほんの一部ではありますが、自分自身がイヌを飼い始めてからイヌにまつわる医学論文を読み進めた際に、興味深いと思ったものばかりです。イヌを飼っている方もそうでない方も、「へえ、なるほど」と思っていただけましたら幸いです。
○山本佳奈(やまもと・かな) 1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー、CLIMアドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)