スイッチヒッターの金子侑は、益田に対しては左打席。この時、打ってからの一塁到達タイムは、手元のストップウォッチで「3秒96」だった。メジャーでも「4秒3」を切れば俊足の部類と見なされるが、気温の低い肌寒い2月下旬から、このスピードを披露するあたりが、さすが盗塁王のタイトルホルダーでもある。

 この内野安打で、試合の空気が変わる。

 2番は源田壮亮。この26歳も、しぶとい存在だ。バントもうまい。ヒットエンドランで引っ張り、進塁打を打つこともできる。この不可欠の2番と、俊足の金子侑を塁に置いての対戦となると、相手バッテリーも神経を使いっぱなしだ。

 益田も、練習試合とは思えないほどの警戒ぶりを見せた。初球のクイックは、モーションを起こしてから投球が捕手のミットに収まるまで1秒10。1秒2が、クイックの速いか遅いかの基準だが、2球目も1秒18、3球目も1秒13。この3球で金子侑は動かない。ところが、走者に気を取られるあまりにカウントは3ボールになっていた。

 その後、カウント3―2からの6球目を、源田は逆方向へ流したがレフトフライ。これで2死一塁。それでも、走者は金子侑。打った瞬間にスタートを切れる2死だけに、金子侑の足なら、長打で楽々ホームイン、シングルヒットでも、どの方向に飛んでも一、三塁のシチュエーションが作れてしまう。

「だから、金子が出ると、2死一塁でもイヤなんですよ」

 前出の小池スコアラーが指摘する。秋山なら、一塁走者・金子侑を一気に生還させる力がある。シングルヒットや四球でチャンスを広げれば、4番には昨季の本塁打王・山川穂高がいて、5番にはパンチ力のある森友哉も控える。恐るべき強力打線。そこに、金子侑が塁上をかきまわしている。敵にすれば、うっとおしいこと、この上ないだろう。

 秋山の打席。益田は、2球続けて一塁へけん制球を投げた。ランナーのリードを、少しでも縮めさせたい。その状況とバッテリー心理を、秋山は冷静に見つめていた。

「金子がランナーに出れば、真っすぐが増えるだろうし、変化球だったら、金子には盗塁もありますからね。あの場面もタイミングを取って、しっかりと振れました」

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辻監督も手応えを感じる2019年型打線