結局、ご主人にお願いしてPCの中を探していただいたところ、亡くなるほんの数日前にほぼ完成に近い状態にまでアップデートされたお原稿が見つかりました。その時も、「やはり、この本は絶対に辰巳さんが世に遺したかった本だ」という想いを強くしました。また、第一稿をいただく半年以上も前から辰巳さんと共にこの本の構想を一緒に考え、原稿のお手伝いをされていたフリーエディターで家事セラピストの石井香奈子さんにも、たどり着くことができました。

 PCに残されていたお原稿で、まだ少々分かりづらい部分、これからイラストを入れる予定だった部分などについて、辰巳さんのお考えを良くご存じだった石井さんに相談にのってもらったり補っていただいたりし、家事塾の皆さんにも最終的な事実関係などを確認していただき、お原稿はさらにブラッシュアップされていきました。

 そして、最後に、辰巳さんがこのお原稿を一番、届けたいと思っていらしたであろう20歳の息子さんに、あとがきをお願いして、ご執筆いただくことができました。まだ亡くなられてから日も浅く、とても辛い時期だろうに、その文章は、本当にしっかりとした優しさと強さに溢れたものでした。このあとがきによって、この本は完結し、辰巳さんも安心して旅立てるのかもしれないと思うと、涙があふれてきました。

 著者不在で編集作業を進めるのは初めてのことで、最初は躊躇するところもありました。しかし、周囲の方々が「辰巳さんならきっとこう言うよ」と、しっかり想いを共有されていたので、最後まで迷わず、一冊の本に仕上げることができました。今も辰巳さんは、後進の方たちの心の中で、しっかりと生き続けていらっしゃることを、強く感じました。

 どうか天国の辰巳さんがこの本の仕上がりを気に入ってくださいますように。そして、1人でも多くの、「ひとり暮らし」を始める人や、その親御さん、自立したいと願うすべての方に、辰巳さんの想いが伝わりますように、心よりお祈りしております。(文藝春秋社 井上敬子)