米国の調査によると、バレエを学ぶ女子学生239人の52.3%が、疲労骨折や骨折、腱鞘炎の経験があることがわかった(写真:getty images)
米国の調査によると、バレエを学ぶ女子学生239人の52.3%が、疲労骨折や骨折、腱鞘炎の経験があることがわかった(写真:getty images)
◯山本佳奈(やまもと・かな) 1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー、CLIMアドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)
◯山本佳奈(やまもと・かな) 1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー、CLIMアドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

 日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、2人の女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回はスポーツ選手などの過度な減量について、NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。

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 華やかなイルミネーションに包まれ、街はすっかりクリスマスモード。クリスマスをテーマにしたバレエ「くるみ割り人形」は、この時期にたくさん上演されます。わたしも、毎年欠かさず見に行く演目の一つです。

 バレエは、筋力、強さ、持久力、柔軟性、敏捷性を必要とする舞台舞踊。そのために、厳しいトレーニングが欠かせず、細く締まった体格を維持しなければなりません。

 余談ですが、バレエ好きが高じてレッスンに通うようになった私。軽やかに飛んだり回転したりしているように見えますが、想像以上にハードです。バレエの先生は、引き締まった体型でスタイル抜群。もちろん、バレリーナは皆すらっとしていて、骨折しないかしら、と心配になってしまいます。 

 実は、バレエに限らず、審美系のスポーツである新体操やフィギュアスケート、持久系のスポーツである長距離など多くの競技で、女性選手は減量をしているといいます。厳しいスポーツの世界で戦う上で、痩せ体型となることが競技パフォーマンスをあげるために有利であるとされがちであることや、審美を気にするあまり、食事摂取量を減らしてしまうことが原因です。

 しかしながら、過度な減量は選手生命を奪いかねません。継続的に激しいトレーニングを行う女性は、利用可能なエネルギーが不足する(low energy availability: 利用可能エネルギー不足)リスクがあります。運動によるエネルギー消費量が、食事によるエネルギー摂取量を上回った状態です。中には、極端な食事制限や、食事を摂取した後に嘔吐するなど、摂食障害を引き起こしているケースもあります。

 この状態が続くと、女性ホルモンや骨代謝に異常をきたします。エネルギー不足が続くと、脳から女性ホルモンの分泌が低下し、排卵がなくなる無月経に陥ります。無月経が長く続き、女性ホルモンの量が少なくなってしまうと、骨密度は低い状態にとどまってしまうことになり、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)を引き起こしてしまうのです。low energy availability、無月経、骨粗鬆症は、女性アスリートの「三主徴」と呼ばれています。

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山本佳奈

山本佳奈

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。2022年東京大学大学院医学系研究科修了。ナビタスクリニック(立川)内科医、よしのぶクリニック(鹿児島)非常勤医師、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

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