■ときにはボーッとして自分の世界を育もう


 
 大学卒業後に進んだ大学院では、「学生生活になくてはならないものだった」というアメリカ留学を経験した。

「アメリカ人と文通したこともあったし、やはり宇宙研究の本場に行ってみたいとも考えていました」

 日本での一人暮らしすらしたことがなかった。電気やガスの手続きも自分でする必要があったが、電話をかけても英語が通じず切られてしまう。真っ暗な部屋で「この先どうなるんだろう……」と思いながら、スーツケースの上で眠ったこともあったそうだ。そんなアウェーな環境での挑戦だったからこそ鍛えられたと、山崎さんは続ける。

「アジアやヨーロッパなど、多様な国の方と過ごせたのもよかったですね。外国の研究者と一緒に研究するという経験が、就職後も、宇宙でも役に立ちました。留学は事前準備に意外と時間がかかるので、検討している人は早めにスタートするといいと思います」

 さぞ忙しい学生時代だったはずだが、今振り返るとまた感覚が違うそうだ。

「当時は忙しいと思っていたけれど、社会人になったらもっと忙しかった。でも、情報を得る技術にも環境にも恵まれている分、今の学生さんは本当に忙しそうだと感じます。学生が人工衛星を開発するなんてことも実現していて……。私なんかはもっとのんびり、ボーッとしていました。そういうボーッとする時間がもう少しあってもいいのでは、と思います」

 あっという間に過ぎ去る時間を大切に過ごしてほしいと話す。

「長編小説を読んでもいいし、旅に出てもいい。そうして得たものや、すぐに答えが出ないことも、自分のなかで温めて育てる時間を持つといい。とくに、調べたことを自分なりに消化して、研究結果として形づくるという経験はぜひしてほしいです」

 自身も研究室に所属し、卒業論文と卒業制作をまとめ上げたことがとても印象に残っている。

「高校時代までの教科書に沿った勉強をインプットとするなら、大学ですることはアウトプットの作業だと思います。そのためにも、大学生活でさまざまなことを蓄積するといいですね」

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