被写体として人気の鉄道だが、悪質な撮影行為はトラブルどころか、事件・事故にも結びつきやすいものだ。実際、線路への立ち入り、草花の踏み荒らしなどが連日伝えられ、一部の愛好家のせいで多くの「撮り鉄」は肩身の狭い思いをしている。なかには乗務員に向かってストロボ撮影する人も……。撮影愛好家はどう振る舞うべきなのか。アサヒカメラ特別編集『写真好きのための法律&マナー』では、鉄道写真を趣味としながら、実際に車掌として勤務していた男性に話を聞いた。
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2016年8月、JR中央線豊田駅で、緑とオレンジ色のボディーでおなじみの115系列車を撮影していた人に対して、駅員の怒号が飛んだ。
ホームで使用が禁止されている三脚を立てて撮影する人がおり、再三の注意に従わなかったため、駅員が思わず声を荒らげてしまったようだ。その様子を動画撮影していた人がネットで拡散し、「こっちは客だ」「罵声飛ばした駅員を解雇しろ」と悪態をつく人まで現れ、炎上騒ぎへと発展した。
「こういうのはよくある話。万が一事故になれば駅員の責任で、『何をしていたんだ』と言われることになります」
そう話すのは、趣味で鉄道写真を撮り続け、40年以上京王電鉄で鉄道マンとして従事していた伊藤功一さん。車掌時代の35年間、ルールやマナー違反を行う「撮り鉄」を数多く目にしてきたという。
「運転席に向かってストロボをたく、ホームの黄色線を越えて撮影するなんてしょっちゅう。私が乗務中に停車駅でお客さんの乗降を確認しているとき、無言でじーっと動画を撮られ続けたこともありました。嫌なものです」
近年は女性乗務員が増え、彼女たちの姿を撮影される機会も増えたという。
京王電鉄では、各駅にホーム上での列車撮影時の「お願い」というポスターを掲示している。そこには「フラッシュ使用禁止」「三脚禁止」「脚立・足場禁止」「黄色線から出ることを禁止」とある。この注意喚起自体が、マナー違反の「撮り鉄」が増えていることの表れだろう。