すると、デスパイネ、松田宣浩、長谷川勇也の3人が代打の「切り札」になる。その格、実績、調子を踏まえれば、デスパイネを一番の勝負どころで使いたい。しかも、ロースコアの試合展開が予想できた。ならば、終盤の“ここ一番”の場面にデスパイネを残しておきたい。そうするとまず、右の大瀬良に対して、左の長谷川を当てるという選択肢が取られても、誰も疑問に思わない。ましてや、長谷川は5年前のパ・リーグ首位打者。広島にとっても、この場面でバットコントロールに優れた左打者の登場は脅威に違いない。

 ただ、この早めの勝負手こそが、この秋のソフトバンクの戦略でもある。

 CS8試合で、ソフトバンクの先発投手が5回以上を投げたのは3試合しかない。すっかり定着した感のある「第2先発」というキーワード。6~7回をトータルで考え、先発と「もう1人」の2枚でまかない、信頼できるリリーバー陣につないでいくという短期決戦ならではのゲーム戦略。これが功を奏して、ソフトバンクはレギュラーシーズン2位から、CSファースト、ファイナルの両ステージを突破し、2年連続の日本シリーズに進出してきた。その“2枚目”の存在としてクローズアップされたのが、7年目の武田翔太であり、5年目の石川柊太であり、さらには下手投げルーキーの高橋礼だった。

 話は前後するが、試合前のセレモニーからその“用意周到さ”がうかがえた。ベンチ入りの選手が1人ずつ名前をアナウンスされ、グラウンド上に整列する。その際、出てこないのはブルペンで調整中の先発バッテリーの2人が普通だ。ところが、千賀と甲斐のバッテリーに加え、武田も開幕セレモニーに姿を見せなかった。マツダスタジアムでは、ブルペンが記者席から見えるわけではない。ただ、容易に想像はついた。その時点で、武田は千賀とともに、もう登板に備えていたのだろう。

「先発を長く引っ張るということはないです。そのために、中継ぎでロングリリーフを行ける人を、多めに入れてありますから」と倉野信次・投手統括コーチ。チャンスで攻め込む。継投でも、どんどん次の投手を投入していく。その“攻めの姿勢”で意思統一されているからこそ、ベンチに迷いの色は見えない。

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“動の采配”がピタリとはまった