千賀の代打・デスパイネは4球目の147キロを捉えると、打球はセンター方向へ。セカンドの名手・菊池が二塁ベース後方でキャッチすると一塁へ送球したが、これを一塁手・松山がそらす間に2者が生還して同点。「大事な場面だったし、2点入ってよかった。いつものように、いつもの感じでしっかりと準備していたから」とデスパイネ。“動の采配”がピタリとはまっての同点劇だった。

 5回からは武田がマウンドに立った。CSでも3試合に登板し、5回2/3を投げ、2安打無失点。もはや“第2先発のエース”でもある。この日は5回に2死一、三塁、6回にも1死一、三塁のピンチを招きながらも無失点に切り抜け「最後は気持ち。ゼロに抑えられてよかった」。

 続いてバトンは石川へ。こちらもCSで4試合に登板、5回1/3で1失点の防御率1.69と、武田とともにその安定感は光っている。固く、傾斜がきつく感じたというマツダスタジアムのマウンドに戸惑い「ちょっと球がバラついたんですけど、全体的に気負うことなくできたんじゃないですか」と、こちらも7、8回の2イニングを被安打1の無失点。8回まで、この“先発3人”でしのぎ切れば、延長12回までの残り4イニングを見通しても、勝ちパターンのリリーバー陣で乗り切れるというメドが立ってくる。

 同点の9回、まず守護神・森唯斗が投入されたのは、サヨナラ負けを防ぐための当然の策。10、11回を任されたのはセットアッパーの加治屋蓮。「武田も石川もイニングをまたいでいたし、絶対に落とせない試合でしたから。イニングをまたいで送り出してもらって感謝していますし、その信頼に応えられてよかったです」と2回を無失点。勝ち越せなかったラストの12回も、まず高橋礼が登板。2死二塁で左打者の田中広輔を迎えると、左腕のリバン・モイネロを投入と、念には念を入れての盤石継投で、広島打線を2回以降、完全に沈黙させた投手陣に工藤監督は賛辞を惜しまなかった。

「みんなナイスピッチ。すごく評価しています。1点取られたら終わりという中、大きな舞台で自分の持っているものを出せる。なかなかできることではないですから」

 4時間38分、ベンチ入りの野手16人を使い切っての総力戦。CSファイナルステージ、西武との5試合で44得点のCSチーム記録を出した打線が精彩を欠いたのは確かだろう。それでも、三塁側上部のビジター応援席以外、広島のチームカラーの「赤」一色に染まった「すごいアウェー感」(加治屋)という状況で、負けなかったという成果を「この引き分けは、本当に大きい。必ず明日(第2戦)につながる引き分け」という工藤監督の言葉に、今後への手応えがみなぎっているように感じた。

 日本シリーズでの開幕戦ドローは1986年以来、32年ぶり。その時のカードは広島対西武、場所は広島。異例の8戦までもつれこみ、西武が日本一に輝いたそのシリーズでMVPに輝いたのが工藤監督で、負けた広島から敢闘選手に選ばれたのが達川光男ヘッドコーチだった。

 立場もユニホームも変わったが、その2人がタッグを組んで臨む日本シリーズで引き分けスタート。その“偶然の一致”は、野球の神様が見せたちょっとした演出なのだろうか。69回目の日本シリーズは、早くも激戦必至の様相を呈している。(文・喜瀬雅則)

●プロフィール
喜瀬雅則
1967年、神戸生まれの神戸育ち。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当22年。その間、阪神、近鉄、オリックス中日ソフトバンク、アマ野球の担当を歴任。産経夕刊の連載「独立リーグの現状」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。2016年1月、独立L高知のユニークな球団戦略を描いた初著書「牛を飼う球団」(小学館)出版。産経新聞社退社後の2017年8月からフリーのスポーツライターとして野球取材をメーンに活動中。