「第2先発」として好投したソフトバンク・武田翔太 (c)朝日新聞社
「第2先発」として好投したソフトバンク・武田翔太 (c)朝日新聞社

 迷いは、なかったのだという。

「あそこは、勝負だと思ったので、デスパイネを使いました。よく打ってくれたし、走ってくれました」

 試合後、ソフトバンク・工藤公康監督が満足感をにじませながら振り返った“勝負手”のシーン。それは、5回表2死二、三塁。直前の4回まで広島の先発・大瀬良大地にノーヒットに封じられていたソフトバンク打線がつかんだ、この試合に訪れた最初のチャンスだった。

 セ・リーグ覇者、広島カープとの日本シリーズ開幕。硬くならない方がおかしいのかもしれない。先発・千賀滉大の立ち上がりは、1死から2番・菊池涼介に左中間へ1号ソロを、さらに丸佳浩に四球、鈴木誠也に右前打を許して一、二塁とされると、5番・松山竜平に右前タイムリーを浴びての2失点と、重苦しいものとなった。

 しかし千賀は、その直後から4回まで打者11人連続で打ち取るなど、尻上がりの好投を見せ始めていた。明らかに立ち直った感が見える。最速152キロの速球に、落差の大きい「お化けフォーク」のキレもよく、4回まで5奪三振。球数も4回終了時で61。これだけの好要素が並べば、シーズン中なら続投だ。千賀が踏ん張ってくれれば終盤にも必ずチャンスは来る。その投球内容を見ても、慌てなくていい場面だろう。

 しかし、指揮官は動いた。

 何の躊躇もなかったのは、直前の動きでも明らかだった。5回、先頭の中村晃がチーム初安打を右前へ運ぶと、続く内川聖一もセンター前へ。西田哲朗の三ゴロの間に1死二、三塁となり、打者は8番・甲斐拓也。ここで、ネクストバッターズサークルに、背番号54が大きな体を揺らしながら入ってきた。

 デスパイネを、ここで使う--。

 DHの使えないマツダスタジアム。CS8試合で打率.364、チームトップの3本塁打を放った主砲の起用法に、大きな注目が集まっていた。工藤監督の選択は、レフトに中村晃、ファーストに内川聖一。守備と打力のバランスを考えた上で、屋外でのナイターでデスパイネにレフトを守らせるという“リスク”を避けたのだ。

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「早めの勝負手」こそが、ソフトバンクの戦略