16年のリオデジャネイロ五輪までは、アテネ、北京、ロンドンを含めた四度の五輪に出場した木村沙織がその役割を担ったが、17年3月の引退以後、攻守両面、さらに勝負強さにおいて、木村を超える存在はいない。もちろん誰もが木村になれるわけではないが、エース待望論が続く中、中田監督もその役割を担う存在として期待を寄せるのが、これが三大大会デビューとなる20歳の黒後愛だ。

 下北沢成徳高ではエースとして全国大会を制し、攻撃の中心としてだけでなく、サーブレシーブを含む守備面でも活躍、名実共にチームの柱として牽引した。自らのプレーで示すだけでなく、リーダーシップも備えており、中田監督も「スパイクが決まらなくても折れないで、立ち向かって行ける強さがある」と称賛する。黒後自身は「まだまだ自分は課題しかない」と謙遜するが、下北沢成徳高の小川良樹監督や、U-23、ジュニア日本代表(U-20)の安保澄監督からの評価も高く、黒後が現在所属する東レ・アローズの菅野幸一郎監督も「間違いなく近い将来、日本のエースとしてバレー界を引っ張る存在」と公言するほどだ。

 下北沢成徳高、東レと所属先も同じでポジションも同一であることから、木村と比較されることも多い。同じバレーボール選手であり、互いに1人の選手なのだから、ポスト、だの、後継者、と呼ばれることについて、少なからぬ嫌悪感はないのかと尋ねると、当の本人はあっけらかんと笑う。

「私なんかが沙織さんと比べられていいの? って感じです。沙織さんの存在は偉大すぎて、比べるところまで全然たどり着けていないし、むしろ『どうなればそこまでいけるんだろう』って私が聞きたいぐらいなんです」

 さまざまなテクニックを備えた木村に対し、黒後は高校時代からトレーニングで培ったパワーが持ち味ではあるが、もともとは速いトスを打つのも得意で、器用さも併せ持つ。体幹の強さは攻撃面だけでなく守備面でも発揮され、ジャンプフローターサーブに対するオーバーハンドでのサーブレシーブは国内トップクラスと言っても過言ではない。

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「持ち味を生かせるように頑張ります」