オリンピックに向けてひたらす改造が進む東京。新しい巨大なビルが増える一方で、もっと小さな街場のビルを楽しむ人も増えている。三浦展さんの新著『ヤバいビル』(朝日新聞出版)の刊行を契機に、20年来の仲だという建築家の馬場正尊さんとの対談を実施した。二人の会話から過去30年間の東京と東京に生きる人々の感性の変貌が見えてくる。
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■2000年の散歩が今につながる
馬場:『ヤバいビル』の写真を見ましたが、よくこんなに集めましたね。サヴォワ邸(コルビュジエの代表作)にアール(曲線)をつけている物件とか驚きです。『ヤバいビル』に掲載されている大宮の風俗店も、三浦さんの推測が面白すぎる。これから岸田日出刀(戦前を代表する建築家)が出てくるなんて誰も考えない(笑)。
三浦:古いビルを見るという視点はそもそも馬場君から得たものです。馬場君とは2000年に、ある雑誌の企画で中目黒や裏原宿を歩いたのが、本書に出てくるような街場の古い建物を面白がった最初ですね。まだリノベーションという言葉がない時代だった。
馬場:懐かしい。設計事務所をやってると、当たり前ですが建築基準法を遵守しないといけないわけですよ。だけど、中目黒や裏原宿とかは木賃アパートの壁を取っ払って、そこにガラスはめただけの美容室みたいなのがいっぱいあって、でもその自由さがうらやましかった。生きる力に満ち溢れているというか。すごく良かったですね。
三浦:面白かったね。今のスタイル化したというか、いわば制度化されたリノベとは違ってアナーキーだった。その後、馬場君が新しい視点から不動産の魅力を見いだす「R不動産」の前身となる活動を始めて、東日本橋あたりのビルに注目して、何度か案内をしてもらったんですけど、そもそも、いつ頃から古いビルに目覚めたのですか?
■自分の家を改造したくて
馬場:私が大学に入学したのが1980年代後半です。建築学生だったので、古い建築を見てまわったし、大学でもフィールドワークで、「街を読み取る」という授業もありました。石山修武(建築家)が大学時代の先生だったんで、集落とか、伊豆の松崎の地域再生とかもしました。街をクローズアップして見て歩く習慣はありましたね。