その理由について、同紙社会面デスクの福井達之さんはこう話す。


 
「記者から甲子園を目指す農業高校の生徒たちを取材したいとの提案からこの企画は始まったのですが、取材方針として、勝ち負けよりも農業に関わることや、選手たちを応援する農家の声や想いを伝えたいと思いました。記事はインターネットでも掲載されているので、励ましのコメントなどが多く届いています」
 
 18日の近江戦で大会史上初となるサヨナラ2ランスクイズを決めた翌日は、金農の記事が一面に“昇格”。決勝進出を決めたことを報じた21日は、一面に加えて最終面でも大特集した。
 
「農業高校」という、時代遅れにも見える学校の活躍に、判官びいきで応援している人も多いかもしれない。しかし、それは誤解だ。たしかに、現在の日本の農業をめぐる環境は厳しく、農産物の価格低迷や自然災害、後継者不足で農家の高齢化も深刻だ。一方で、金足農の選手たちのように、若い世代を中心に地域に密接に関わる農業を志す若者は増えていて、希望も生まれている。
 
 農林水産省によると、全国の農業高校で学ぶ生徒は学校の統廃合や少子化などで減少傾向にあるが、2016年現在で8万2000人いる。しかも、うち49%を女子が占めている(2016年)。06年の女子比率は34.3%なので、20年で15ポイントも上昇した。若者の間での「農業ブーム」の高まりで、15年には龍谷大が国内で35年ぶりとなる農学部を新設。その後も大学で農業を学ぶ学部や学科の新設が相次いでいる。
 
 日本農業新聞も、創刊90周年企画として今年から「若者力」と題したキャンペーン報道を開始。農村で活躍する若者たちを追いかけ、農業・農村の未来を論じてきた。前出の福井さんもこう話す。
 
「金足農も地域に密着した学校ですが、農業高校という土や食べ物をフィールドに学ぶ若者は、地域に強い想いを持っている。農業に関わりたいと思う高校生がたくさんいるということに、金足農の躍進を機会にもっと関心を持ってもらえればうれしい」
 
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金足農は「農聖」の生まれ故郷