枝野幸男立憲民主党代表が行った国会での内閣不信任案の趣旨説明の演説で、公務員の不祥事について詳しく取り上げた。財務次官のセクハラや文科省で相次いだ収賄事件などが安倍総理の責任だと言うのは行き過ぎだという気がしたが、それでも、そう言いたくなる気持ちは理解できた。ここでも、安倍総理が王道ではなく覇道を行く政治家だということが非常にはっきりと表れている。

 安倍総理を立派な政治家だと思っている官僚がどれくらいいるだろうか。私は、そんな官僚には会ったことがない。

 もちろん、安倍総理でなくても収賄事件は起きるかもしれないが、少なくとも財務省の決裁文書改ざんなどという事件は起きなかったであろう。力で官僚をコントロールする「覇者」安倍政権は、その副作用として、官僚の間違った忖度精神、すなわち、度を越えたゴマすりを助長し、犯罪と言っても良い行為まで行わせるに至ってしまった。

 安倍総理と対極にある政治家として、私は谷垣禎一前自民党総裁の話をしたい。谷垣氏が産業再生機構担当大臣だった時のこと。私が同機構の執行役員としてコンプライアンスのルールの一環として、政治家による個別案件への介入を完全に排除することにしたところ、谷垣大臣は、事務方に、機構がどの会社を対象に支援を行うかについて、事実上話が決まるまで報告をしなくても良いと指示をした。すると、副大臣の根本匠氏は、地元百貨店の支援決定について、直前まで何も話を聞こうとせず、支援決定の説明を谷垣大臣に行う会議で、自ら席をはずそうとした。地元企業の話について、ここまで徹底して身を律する姿勢に驚いた私に、根本氏は、「僕は谷垣大臣にならっただけだよ。大臣に迷惑をかけては申し訳ないからね」と話してくれた。根本氏自身の心意気も素晴らしかったが、やはり、自分の部下に、「大臣が私心なくやっておられるのだから、自分も身を律しなければ」と思わせた谷垣氏の「人徳」に感銘を受けたことをよく覚えている。

 こうした総理がいれば、多くの官僚が、「聖人君子」とはいないまでも、模範的官僚になれる可能性は高いのではないだろうか。それに引き換え、安倍総理を見ている官僚たちは、「捕まりさえしなければ、どんなに疑わしいことをしても許される」という安倍総理の倫理観に影響されて、「いかに見つからないように私腹を肥やそうか」と考える者が増えたとしても不思議はないと思う。

 人事や退官後の嫌がらせなどで徹底的に官僚を脅し上げ、一方で、忖度官僚を厚遇するというまさに人徳なき「覇者」の政治が官僚機構を崩壊の淵にまで追い込んでしまったのではないだろうか。

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安倍総理の覇権争いを止めるのは王道政治家