笑顔で小学生記者たちの質問に答える高橋源一郎さん(撮影/松村大行)
笑顔で小学生記者たちの質問に答える高橋源一郎さん(撮影/松村大行)
読書会では、子どもたちからたくさんの質問や感想、アドバイスが飛び出した(撮影/松村大行)
読書会では、子どもたちからたくさんの質問や感想、アドバイスが飛び出した(撮影/松村大行)

 多くの小説や評論を発表してきた作家・高橋源一郎さんの最新刊『ゆっくりおやすみ、樹の下で』は、著者初めての「児童文学」。去年7~9月「朝日小学生新聞」に連載され、多くの反響を呼んだ同作で、高橋さんが子どもたちに伝えたかったこととは。4人の小学生記者たちとの読書会で、作品への思いを明かした。

【読書会では、子どもたちからたくさん質問や意見が…】

*  *  *

 主人公は5年生の女の子ミレイちゃん。夏休みを、鎌倉の祖母の家ですごします。大きなさるすべりの樹があるその家で、ミレイちゃんはたびたび過去へタイムスリップし、今は亡き曽祖母などに出会い、時空をこえて家族の歴史をたどります。

 物語には、不思議な館に住んでいて、ミレイちゃんにいろんな話をしてくれる祖母や、目が見えない犬のリングなどが登場します。キャラクターの多くにはモデルがいます。

 自分の家族のことを書きたかったと高橋さんは言います。

「中に入っている小さなエピソードも含めて、ぼくや妻の家族に起きたことがたくさん入っています。書いていて、うれしいような楽しいような、悲しいような、そんな気分でした」

 物語の後半、ミレイちゃんは戦時中にタイムスリップし、曽祖母の恋人ムネヒコさんに出会います。ムネヒコさんのモデルは、太平洋戦争のさなかにフィリピン・ルソン島で戦死した高橋さんの伯父・宗彦さん。

「この伯父が、ぼくにそっくりだったらしいんです。もしかしたら生まれ変わりかもしれないなって思ったら、戦争が他人ごとではないと感じました。この年になってようやく、家族のことや戦争のことを、心の底から考えたり、書いたりしたいと思ったんです」

 ミレイちゃんはまた、戦争に行った恋人を心配する若き日の曽祖母と話しながら、戦争に巻きこまれて悲しんでいるのが、自分が知らない「だれか」ではなく、自分につながる大切な人だということに気づきます。

 高橋さんは、戦後70年を迎えた2015年に訪れたルソン島慰霊の旅のルポルタージュにこう記しています。

――過去は、わたしたちとは無縁ではなく、単なる思い出の対象なのでもない。「そこ」までたどり着けたなら、わたしたちの現在の意味を教えてくれる場所なのだ。――(2015年7月22日付朝日新聞)

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