「知らないのは愚か、知らせないのは罪」。緊急避妊薬のことを、欧米などの先進国ではこのように評価しています。

 欧米諸国では、2000年前後に緊急避妊薬として承認されており、06年10月末時点で、国連加盟国の192カ国中114カ国で承認されていましたが、当時日本は未承認でした。なんと、未承認の国のイランやアフガニスタン、北朝鮮などごく少数の国々に名を連ねていたのです。

 欧米の承認から10年ほど遅れて、日本でもようやく承認され発売されるに至りました。ですが、日本では、緊急避妊薬は医師の処方箋なしでは手にはいりません。「欧米より性教育が進んでいない」という理由から、薬局販売が先送りされています。一方で、多くの先進国ではすでに市販薬として販売されているため、薬局やドラッグストアなどで簡単に購入することが可能です。ジェネリック薬品も出回っており、米国では10ドル前後と比較的安価で手に入ります。

 日本におけるノルレボの処方数は、2012年の約5万4千から2016年の約11万4千と増加しているものの、欧米に比べると使用量が少ないのが現状です。理由の一つに、諸外国と同じように市販薬としてではなく、医療機関の受診が必要であることが挙げられます。日本でも、2017年に厚生労働省の「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」で「ノルレボ錠」について、薬局で薬剤師の指導のうえ購入できるOTC化への転用が議論されましたが、残念ながら転用は見送られているのが現状です。
 
 無防備な性交渉や避妊に失敗した性交渉の後に、緊急的な手段として用いられる緊急避妊薬。避妊が成功しても、ああよかったと安心してはいけません。コンドームを使用していない性交渉は、性感染症のリスクを増加させます。そのため、自分の身体を守るためには、HIV、クラミジア、梅毒、淋菌などの性感染症の検査も大切なのです。

 パートナーを信頼しているから私にはそんな検査は必要ないわ、とか、症状も特にないから感染なんかしていないわ、と思っている女性も多いかと思います。残念なことに、性感染症は症状を自覚しにくいことが知られています。また、クラミジアや淋菌は不妊症を引き起こすこともわかっています。妊娠したいと思って検査をしてみたら性感染症が陽性だと診断されました、なんていうケースは珍しくありません。

 緊急避妊薬は、あくまでも緊急的な手段として用いられる内服薬です。妊娠を望まないなら、必ず避妊をすることが大切です。万一、避妊に失敗してしまったとしても、一人で悩まずなるべく早く病院を受診してくださいね。

◯山本佳奈(やまもと・かな)
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー、CLIMアドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

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山本佳奈

山本佳奈

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。2022年東京大学大学院医学系研究科修了。ナビタスクリニック(立川)内科医、よしのぶクリニック(鹿児島)非常勤医師、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

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