井納の特筆すべき点は、肩を作る早さである。本人は次のように言う。

「先発のときとの大きな違いは、ブルペンでの球数を極端に減らしていることですね」

 準備をしやすい勝ちパターン要員とはいえ、起用法が多岐にわたっている現在の状況を考えれば、これは大きな利点といえるだろう。

「まず一度キャッチボールをやって『行くぞ!』と言われてから、強めにキャッチボールをやって、さらにキャッチャーを座らせて10球ぐらいですかね」

 井納はこのように語るが、ブルペンで様子を見ている木塚敦志コーチの解釈はちょっと違う。

「単に10球で肩ができるということじゃなく、そういった気構えがあるっていうことですよ。ボールを握らないところで入念に準備をしている姿を毎日見ていますし、10球で行けるぐらいの用意をしているといったほうが捉え方としては正しいと思いますね」

 リリーフに転身して1カ月半ほど経つが、正直、メンタルを問われる職場である。気持ちの入れ方など、そのあたりで戸惑いなどはないのか。

「試合の入り方に関しては、声が掛かるまで気持ちを完全に切っているので戸惑いというのはありませんね。それに日本代表や昨年の日本シリーズでも投げているので、いろいろと経験をしている自負はあります」

 では、中継ぎは自分に合っていると思うのか。

「うーん、それはまだ思ってないですね。もっと連投を任せられるようにしないと。難しさですか? それにもまだ気づいてないかもしれません。例えば、イニング途中からランナーを背負った場面での登板をほとんど経験していないですし、シーズンが進むにつて難しさみたいなものには気づいていくと思います。今後はもっと大切な場面での登板が増えてくるでしょうから、とにかくチームの勝利に貢献できるように頑張りたい」

 こだわっていた先発を外され悔しい思いはあるに違いないが、任されたところで根を張り、花を咲かすことを井納は覚悟している。           

 勝ち試合の7回に井納が出てきたとき、今日はもう大丈夫な流れだ、という安心感をファンやチームに与える存在に、ぜひなってもらいたい。(文・石塚隆)

●プロフィール
石塚隆
1972年、神奈川県生まれ。スポーツを中心に幅広い分野で活動するフリーランスライター。『週刊プレイボーイ』『Spoltiva』『Number』『ベースボールサミット』などに寄稿している。