ビルの屋上でのライヴというなんとも魅力的な構図は、後進のアーティストたちにさまざまな形で刺激を与えた。

 個人的にもっとも強く印象に残っているのは、U2が傑作『ザ・ジョシュア・トゥリー』のオープニングに収めた「ホエア・ザ・ストリーツ・ハヴ・ノー・ネーム」のミュージック・ビデオ。大規模な世界ツアー開始直前の1987年3月末、ロサンゼルスに滞在していた彼らはダウンタウン、7thストリートとメイン・ストリートの交差点に建つリカー・ショップの屋上で、グラミー映像部門賞も獲得することになるそのビデオの撮影を行なっている。厳密な意味でのライヴではないが、街の人々からの反応も撮影されていて、彼らがビートルズを意識していたことは明らか。マンハッタンのビルを船に見たて、ノラ・ジョーンズがその舵を操作しながら歌う、「チェイシング・パイレイツ」のビデオもなかなかだった。

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大友博

大友博

大友博(おおともひろし)1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など。dot.内の「Music Street」で現在「ディラン名盤20選」を連載中

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