ハイテンションだった稲田氏 闘病の記者が考える「空」 (1/2) 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)

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ハイテンションだった稲田氏 闘病の記者が考える「空」

連載「がんと闘う記者」

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野上祐(のがみ・ゆう)/1972年生まれ。96年に朝日新聞に入り、仙台支局、沼津支局、名古屋社会部を経て政治部に。福島総局で次長(デスク)として働いていた2016年1月、がんの疑いを指摘され、手術。現在は抗がん剤治療を受けるなど、闘病中

野上祐(のがみ・ゆう)/1972年生まれ。96年に朝日新聞に入り、仙台支局、沼津支局、名古屋社会部を経て政治部に。福島総局で次長(デスク)として働いていた2016年1月、がんの疑いを指摘され、手術。現在は抗がん剤治療を受けるなど、闘病中

 その言葉は哲学者のおじから贈られ、自分の中心にあり続けると、12年前の郵政選挙で初当選した彼女は本に記している。辞任の心境を尋ねる記者団にもみくちゃにされながら、その言葉「空(くう)」を残し、稲田朋美元防衛相は防衛省の建物を出ていった。

 そのとき彼女がにやにや笑っていたと、その場にいた一人の目には映ったという。また、辞意表明後のあいさつ回りでは、「どうもー!」とハイテンションだったとか、「立場がわかってないんじゃないの?」という声があったらしいとも聞いた。

 夜のニュースで、防衛省を出る彼女が本当に笑顔か確かめた。白い歯がこぼれている。私にはこう見えた。

 この笑顔は、自分の心を守るためのものではないのか――。

 不祥事や問題発言で追い込まれた政治家が笑顔を浮かべる。そんな場面を何度も見てきた。場違い、無反省。なぜ、こんな顔をするのかと不思議だった。

 稲田氏の顔でなぞが解けたような気がした。確かに彼ら、彼女らが反省していないことが大きいのかもしれない。だがそれだけでなく、何も起きていないかのように笑わなければ、招いた現実に心を折られ、その場に踏みとどまることすらできなかったのではないのか、と。

 そんなふうにひとり合点することは、病気にならなければなかっただろう。

 その笑顔はたぶん、私自身にもあるものだ。病状に照らして、それが周囲に不釣り合いに見える場合もあることは承知している。だが、ともすれば死のふちをのぞきこもうとする心を笑顔で引き戻さなくては、病状や治療に冷静に立ち向かえる範囲に心をとどめ置けないのだ。


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