中でも有名なのは、現役時代に稼いだ約1億1000万ドル(約122億円)をすべて遣い切ってしまったアントワン・ウォーカーのケースだ。1996年にNBA入りしたウォーカーは、オールスターにも3度選出。しかし、ギャンブルで負けを積み上げただけでなく、ベントレー2台、ベンツ2台、レンジローバー、キャデラック・エスカレード、ハマー、マイバッハなど盛大な車のコレクションに多額をつぎ込んだことが喧伝された。さらにビジネスの失敗、取り巻きへの気前良すぎるサポートなどが重なり、2010年についに自己破産。そんなウォーカーのアップ&ダウンに溢れたライフストーリーは米国内で盛んに語られてきた。

 こうした失敗談はスポーツ界には他にも溢れ返っているにもかかわらず、破産するアスリートはそれでも後を絶たない。破滅を避けるためのスポーツ選手向けのセミナーなどは数多いが、大きな効果を発揮しているとは言い難い。

「若くして大金を手にしたプロ選手が金銭面での謙虚さを保ち続けるのは容易ではない。ロッカールームはミリオネアばかりで、そんな同僚たちと付き合えば支出も自然と大きくなる。特に彼らはもともと負けず嫌いの性分だから、散財の面でも張り合おうとしたがるんだ」

 NBAの某チームで働く職員のそんな言葉は真実を言い当てているようにも思える。アメリカンドリームを成就させたヤング・アスリートは、手に入れた金を使うことで成功を噛み締めようとする。選手としての向上を助けた負けず嫌いの精神が、ここでは良くない方向で発揮されてしまう。遊びにしろ、投資にしろ、金の費やし方を学習しているわけではないから、減っていくのも早い。こんな真実は、華やかな米スポーツの闇の部分を示していると言えるのだろう。(文・杉浦大介)