長い時間をかけてわかってきた夫の気持ちはこうでした。

・妻がなぜ怒ったのかわからない
・妻が怒る理由がわからないので妻の機嫌を損ねないようにびくびくしている
・10時に出かけるといわれたから、5分前に車を出しに行こうと思ってそれまで邪魔にならないようにテレビ見ていたのに、突然、「何か」やってと言われて訳が分からなくなった

 お互いに、相手が突然怒り出すと認識しているわけです。それでは大変です。

 清子さんは、我慢強い人で、不満や怒りがあってもできる限り自分の中で処理しようとする方です。そのため限界を超すまでは、不機嫌になったりすることは少ないので、夫にはわかりにくいようなのです。それだけドタバタしていれば、妻がテンパっているのがわかるだろうというのも、夫にはあまりぴんと来ないようです。

 逆に清子さんからすると、こういう事件が起きるたびに、夫は自分の気持ちを分かってくれていない(自分を大事にしてくれていない)と感じてしまい、今や夫を信頼し続けるのがすごく難しいといいます。

 ご夫婦の相談で、以前から多いのが、コミュニケーションがうまくいかない、話ができないという訴えです。主に訴える側が夫婦のどちらかによって特徴が異なります。両方とも、「話が通じない」という問題提起は同じなのですが、いろいろお聞きして解きほぐしていくと、夫側からの訴えの場合は、つまるところ、自分は論理で話しているのに妻が感情的に反応するので議論にならないというような話が多く、妻側からの訴えの場合は、気持ちが分かってもらえない、つながりを感じられない、愛されている実感が持てない、というようなことに悩まれている場合が多いのです。

 今回のケースではいろいろお話をお伺いするうちに、夫にASDの可能性があるのではないかと思いました。ASDとは、自閉症スペクトラム障害(以前の呼称だとアスペルガー症候群)という、発達障害の一つです。

次のページ
ASDの夫による妻のストレス症候群も