一方、樋口美穂子コーチは、4回転サルコーを入れると6分間練習が「すごく忙しいんですね、やることがいっぱいあって」と言う。時間がなく、良いトーループが跳べないまま終わった6分間練習と同じ失敗を、本番でもしてしまったというのだ。また、これは推測の域を出ないが、宇野がジャンプの回数を勘違いするほど「精いっぱい」だったことにも、4回転サルコーへの強い意識が関係していてもおかしくはない。

 インフルエンザで十分な練習が積めないまま臨んだ前の試合・フランス杯と比較し、宇野は「ファイナルはベストなコンディションで挑むことができました。フリーでたくさん失敗してしまって心残りはありますけれども、この試合すごく楽しかったなって。そして満足いく試合が送れたなと思っています」と述べた。

 樋口コーチも「今、良い感じで練習ができているので、そのままいければ」と、今の宇野の充実ぶりを語っている。「やっと今回は満足いく練習ができました。それでも1、2週間では補えないものがあると今大会を通して思いました」という宇野には、練習の先に、サルコーを新たに加えて4回転を5本に増やしたフリーも完成させる道筋が見えているのではないだろうか。

 次の試合は、宇野が「一番僕にとっても大事な試合」という全日本選手権。「自分のベストが出せたらなと思っています」と話す宇野は、練習を積んでその言葉を現実のものにする。(文・沢田聡子)

●プロフィール
沢田聡子
1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。シンクロナイズドスイミング、アイスホッケー、フィギュアスケート、ヨガ等を取材して雑誌やウェブに寄稿している。「SATOKO’s arena」