かつて、予告先発でなかった時代には、先乗りのスコアラーたちは投手の調整パターンを徹底的に分析した。そのルーティンを毎日チェックし、相手の先発を予想する。さらに当日の試合前練習で、どの捕手が打撃練習の早い組に入っているかを確認する。先発投手とのミーティングや投球練習を行うスケジュールから、その日のスタメン捕手は早めに打撃練習を終える必要がある。投手との相性で捕手が代わるケースがある球団では、当日の打撃練習を見れば相手の先発投手が高確率で判明するケースもあるのだ。

 つまり、予告ではなくても先発投手は読み切れる──。

 藤本博史打撃コーチも「影響はちょっとあるわな」と苦笑してみせながらも、打順の最終決定と相手投手の分析は「全部、明日(開幕当日)になるね」とこちらも慌ててはいない。

 余裕というのではない。開幕前のおよそ2時間半の全体練習でも、選手個々の動きに浮ついた感じが見えない。チーム全体に、どしっとした雰囲気が漂っているのだ。「非常に落ち着いている感じが自分でもある」と工藤監督は開幕前の気持ちを自己分析した。

 その冷静さの裏付けは、こう読み解けるのではないか。最後の最後の大舞台でベストメンバーが揃ったから──。

 実はこの1年、ソフトバンクは故障者が続けざまに出ていた。開幕直後に開幕投手の和田が左肘手術。6月の交流戦ではアルフレド・デスパイネが右太もも裏を肉離れ、内川聖一は7月下旬に左手親指付け根を骨折して2カ月の戦線離脱、そしてリーグ優勝決定後に柳田悠岐が右わき腹を痛め、クライマックスシリーズ(CS)のファイナルステージ(FS)開幕に間に合わなかった。

 常に誰かが欠けていたのだ。それでも、ソフトバンクはシーズン94勝を挙げ、FSでも2連敗後に3連勝。幾多の危機を乗り越え、日本シリーズの大舞台へたどり着いた。「全員がいるというのは初めてになるかな。だから期待もしている。素晴らしいゲームをしてくれていると信じています」と工藤監督は言う。

 2017年度版のフルキャストが、大一番を前にしてやっと揃ったのだ。だから、予告先発の提案が却下されたところで動じることもない。それぞれが力を十分に発揮してくれたら勝てないわけがない。まさしく、肉を切らせて骨を断つ。相手の思惑に乗ったかのように見せて、実は織り込み済みの「予告先発なし」というわけで「ウチも隠しますよ。だって予告じゃないんだから」とニヤリ。この状況をむしろ楽しんでいるかのようだ。

 しかも、相手先発の右左に関係なく、左打者の柳田を1番に起用することを大胆にも“予告”してみせた。電撃復帰したFS第5戦で2安打1打点の活躍を見せ、7-0での大勝の口火を切った活躍ぶりは工藤監督ならずとも印象深いものがあった。

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