1976(昭和51)年の大河ドラマ第14作は「風と雲と虹と」だった。その一回目の冒頭、原作者の海音寺潮五郎が画面に現れて主人公や物語について解説するという演出が、視聴者を驚かせた。
「将門という男、非常に正義感が強く素朴な坂東武者という感じがします。彼を逆臣、大悪人としたのは水戸史学の『大日本史』です」と、視聴者に向って海音寺が語り始めたのだ。
大河始まって以来のオープニング。なぜこんな意表を突く展開にしなければならなかったのか? チーフ・ディレクターの大原誠はその意図を次のように語っている。
「今から約千年前の物語ですから、視聴者には想像を絶する時代です。そこでこの時代を、原作者の歴史観を知ってもらうためにも、第一回目の冒頭で海音寺潮五郎氏に解説してもらいました」(『NHK大河ドラマの歳月』)
過去、大河がとりあげた最も古い時代は10作目の「新・平家物語」だった。「風と雲と虹と」は平清盛が生まれる二百数十年も遡った時代の平安中期が舞台故に、視聴者の興味を喚起させるドラマ作りが求められたのだ。
日本史では悪人とされている将門について、海音寺は「悪人列伝・平将門」の中で次のように語っている。
「明治以前、関東地方で明神と呼ばれていた神社の多くは将門を祀ったものであった。彼に対する関東地方の人々の崇敬の念がいかに厚かったかを語るものであろう。(中略)これほど人気のあった将門が、次第にその人気を失ったのは、江戸時代になって儒教が全盛をきわめ、大義名分の思想が社会常識となったため彼を単なる逆賊と見るようになったからだ」
「風と雲と虹と」の原作は海音寺の「平将門」と「海と風と虹と」の二作品。前者の「平将門」はいうまでもなく将門が主人公だが、後者の「海と風と虹と」は朝廷転覆の野望を抱く伊予大津の豪族・藤原純友に比重が置かれている。
将門には加藤剛、純友には緒形拳が扮した本作は、腐敗した都の貴族社会に失望し、坂東(関東)に独立国を築こうと権力に立ち向かった風雲児・平将門と、それに呼応して西海(瀬戸内海)に理想郷を築こうとした藤原純友の友情と戦いを描いている。
将門を演じた加藤さんは当時のことを次のように語っている。