『反省させると…』では、周囲の人たちが犯罪者側の視点で状況を見直して、犯罪者側の視点を受容することの重要性が説かれています。これはカウンセラー的な言葉で言えば犯罪者側の心情に「共感」するということです。

 浮気問題に当てはめてみると、浮気した側の視点で状況を見直して受容するということになりますが、これは当然難しいことです。刑務所は被害者がそこにいないからこそ安心して「犯罪者側の視点で状況を見直して、犯罪者側の視点を受容する」ということができるのであって、夫婦だと妻はただでさえ傷ついているのに、さらに浮気した夫の視点で状況を見て「共感する」なんて激しい嫌悪感を持つのが当然です。

 妻はショックを受けているわけですから、危機介入という観点からすると、妻の視点、妻の気持ちこそ最初に受容されるべきことです。

■反省より妻のケア

 つまり、問題を2つに分けて考える必要があるのです。妻への危機介入と、浮気の再発防止です。緊急度がより高いのは傷ついた妻の気持への危機介入です。この危機介入に失敗すると、その傷が癒えませんから、妻は夫婦を続けるためにずっと癒えない気持ちを抱えながら抑え続けることになり、結果、夫はずっとその話で陰に陽に責められ続けます。

 一方、夫側からすると、「反省」という名の罪悪感を持つこともまた、自分の気持ちを抑え込むことなので、(そして妻にずっと責められ続けるのを我慢するのも)自分を抑えることになるので、結果として抑え込まれた気持ちが爆発してしまいます。仮にそこまで、気持ちを抑えることがなかったとしても、そもそも浮気に至ったメカニズムが解明されていないし、そこに変化があるわけではないので、当然に同じことが起こりうるのです。

 なので、「危機介入」として何をしたらいいのか、まずそれを考えるべきです。反省は所詮浮気した側の話です。必要なのは、妻の気持ちへの危機介入であって、不倫に走った側は、罪悪感に浸ってうつうつとしている場合ではないのです。

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西澤寿樹

西澤寿樹

西澤寿樹(にしざわ・としき)/1964年、長野県生まれ。臨床心理士、カウンセラー。女性と夫婦のためのカウンセリングルーム「@はあと・くりにっく」(東京・渋谷)で多くのカップルから相談を受ける。経営者、医療関係者、アーティスト等のクライアントを多く抱える。 慶應義塾大学経営管理研究科修士課程修了、青山学院大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程単位取得退学。戦略コンサルティング会社、証券会社勤務を経て現職

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