U-18ベースボールワールドカップで不振だった広陵・中村奨成(c)朝日新聞社
U-18ベースボールワールドカップで不振だった広陵・中村奨成(c)朝日新聞社

 夏の甲子園での活躍で高校ナンバーワン捕手としての評価を不動のものにした中村奨成(広陵)。入学直後から名門・広陵の正捕手となり、2年時からは中軸も任せられていたが、地方大会の時点ではどちらかというと守備の印象が強い選手だった。広島大会では初戦で右手首に死球を受けた影響もあり、6試合での打撃成績は17打数3安打と2割以下の打率に終わっている。準決勝、決勝でホームランを放つ長打力は見せたものの、確実性は乏しかった。さらに言うとチーム自体も秋、春と連続で県大会優勝を果たしている広島新庄の方が前評判が高く、甲子園出場も難しいと見る声が多かった。広島大会の初戦に11球団30人ものスカウトが集結したのも、甲子園ではプレーが見られない可能性が高いと考えていた関係者が多かったことを物語っている。もし広陵が甲子園出場を逃していた場合、中村の評価も高くても外れ1位か2位程度の評価だったと予想される。

 繰り返しになるが、中村の運命が大きく変わったのはやはり甲子園での活躍である。6本塁打、17打点、43塁打は大会新記録、19安打、6二塁打も大会タイ記録と広島大会での不振が嘘のように打ちまくり、スカウト陣からも「間違いなく1位で競合する」と言わしめるまでに評価は上昇した。チームは惜しくも準優勝に終わったものの、大会の主役であったことは間違いない。

 しかしそんな中村もU-18ベースボールワールドカップでは大きな挫折を味わうことになる。大会前は清宮幸太郎(早稲田実)、安田尚憲(履正社)とともに中軸を任せられる予定だったが、甲子園での打棒はすっかり鳴りを潜め8試合での成績は25打数3安打の打率.120で、ホームランはおろか打点、長打も0に終わったのだ。その原因の一つはやはり甲子園大会での疲労である。捕手として6試合フル出場した疲れは確実に残っていたように見えた。具体的には下半身の粘りが足りなかったことが大きい。甲子園ではステップしても体がしっかりと残っていたが、U-18では体勢が崩れて早くバットが出てしまうようなスイングが目立っていた。もうひとつは、やはり木製バットと動くボールへの対応である。金属バットでは140キロ前後のストレートでもリストの強さで押し込んで長打にすることができていたが、木製バットでは速いボールに差し込まれてしまうことが多かった。安定して結果を残すためには体力面の強化と小さい動きで強く振り切れるスイングを身につけることが必要になるだろう。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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