ケガによる雌伏の時を経て今春。高校を卒業したサニブラウンは今年9月から米国のフロリダ大に進学することを決め、その空白期間を利用して1月からオランダの代表チームで指導を仰いでいた。その成果によって、走りがどう進化しているのか、自信がのぞく言葉の響きに興味をそそられた。だが、5月に出場したゴールデングランプリの100メートルでは見せ場のない4位で、不発に終わる。

 だが、その発言が単なる強がりでないことは1カ月後に証明される。6月23日からの日本選手権で末續が果たした03年大会以来の短距離2冠を果たした。その時の走りは、まさしく世界選手権で再現されることになる伸びやかでダイナミックなそれだった。

 急激に伸びた記録が走りの飛躍を端的に物語っている。サニブラウンの100メートルの自己記録は昨年まで10秒22(それでも高校歴代2位なのだが)。だが、今年は4月に10秒18を出すと、日本選手権の3レースで10秒06を2回記録し、決勝で10秒05に到達してしまった。それに比べて200メートルは物足りなかったが、それでも日本選手権決勝で自己ベストを20秒32に更新した。

 いったいサニブラウンの何が変わったのか。日本陸連女子短距離部長でもある瀧谷賢司氏(大阪成蹊大監督)が、こう指摘する。

「力技だけの走りじゃなかった。オランダでコツをつかんだんでしょうね」

 また、別の専門家は「100メートルで9秒99はおろか、9秒9台中盤以上の動きをしている。タイミング重視という感じです」との見方をしている。

 それらは、絶妙なタイミングで的確な方向に地面を押せているなどのエネルギー効率の良さを意味しており、サニブラウン本人が語っている「脚が後ろに流れなくなった」動作や乗り込みの滑らかさも、それを支える重要な要素ということになる。

 さらに前述の2人は「計測しなければ確定的なことは言えないが、股関節から生まれるトルクが日本人離れしている」、「それは的確なフィジカルトレーニングの効果でしょう。脚の根本が太くなっています」とも分析した。

 テクニックとフィジカルの2要素がともに高度に洗練されつつあるというのだ。サニブラウンの認識は「世界のトップを教えているコーチのテクニックはやはり違うと思うんですね。そこで学んだことがすごく大きいのかな。吸収できることはすべて吸収をしようと努力をしてきました」だ。

次のページ