しかし先述したように、第2セット中盤からマリーはプレーのレベルを引き上げ反撃に出る。それでも第3セットの中盤には、今度は錦織に不利と思われる一つの判定を機に、判官びいきの気質の強いパリの観客は錦織の側に着いた。

 スタジアムに掲げられた旗を翻らせる強風が、上空の雲を押し流し、コート上の陰と日なたを目まぐるしく描き変える。その不安定な環境のなか、試合の流れも両者の間を行き来するが、第3セットのタイブレークを錦織が1ポイントも取れずに落としたのが、最後のターニングポイントだった。

「一番悔いが残るのは、タイブレーク。ミスが相次いだのと、ダブルフォールト。あそこが一番もったいなかった」

 試合後に錦織は悔いをにじませ、敗因を振り返る。それでも、手首のケガもあり十分な準備のできぬまま挑んだ今大会で、戦うごとに調子を上げて、ベスト8まで勝ち上がった。

「良いテニスが戻ってきた。チャンスがありながら負けるのはまた別の悔しさもあるが、良い1週間だったと思います」

 最後はポジティブな面に目を向け、ここから続く道を歩むべく顔を上げた。(文・内田暁)