極めて専門性の高い診療科だが、実は最近は目と全身との関わりも注目されている。糖尿病や高血圧などの生活習慣病の末に、糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、加齢黄斑変性といった疾患を合併する患者が増えているのだ。志村医師が言う。

「全身疾患の症状が目に現れてくることは少なくありません。学生時代や初期研修では、全身の病気のこともきちんと勉強してきてほしい」

■広がる外科手術。伝統的に女医が多い

 気が付くと、深夜から明け方まで手術をしていることもあるので、「体力が必要」とも。

「それでも無事手術が成功して、視力を取り戻せた喜びに勝るものはありません」

 内科系や、短時間で終わる白内障などの手術が主体であれば、時間のやりくりがしやすく、女性医師が多い診療科でもある。開業医であれば、多くの患者を診ることもできるが、それなりの高額機器が必要で、設備投資や減価償却で、収益性の高い診療科ではないとされる。

「手術のようなチームプレーでさえ2~3人の少人数で行うことができ、1人で診断から治療まで行うことも可能ですので、1人でしたいという人に向いているかもしれません」

 見えるということは、人生を豊かにする。志村医師の忘れ得ない患者の1人に、末期がんだったが、白内障手術を施した結果、家族の顔をしっかり見て心に刻み、とても満足して息を引き取った人がいる。眼科医冥利に尽きる出来事だ。(文/塚崎朝子)

志村雅彦医師
埼玉県出身。1991年東北大学医学部卒。97年東北大学大学院修了、同大医学部付属病院助手。98年米国ミシガン大学留学。東北大学医学部眼科講師、NTT東日本東北病院眼科部長などを経て、2012年から東京医科大学八王子医療センター眼科教授