信長さん
信長さん

 よく出版業界で聞かれるジョークのひとつに「ビジネス書を読むだけで成功できるなら、世界一の成功者はビジネス書の編集者だ」というものがある。もちろん、実際にはそうならない。実践が伴わないからだ。

 これはビジネス書を読む多くの人が直面する問題だろう。いかに魅力的なビジネススキルを本で学んだところで、日々の仕事のなかで使い、結果を出し続けられる人はなかなかいない。ならば、本当に学ぶべきことはビジネススキルではなく、自分を変えるための努力を継続する方法なのかもしれない。

 それを学ぶのに格好の人物がいる。歌舞伎町の有名ホストクラブ「Club Romance」の代表取締役で、これまで幾度となく同店のナンバー1に輝いてきた信長さん(38)だ。

その経歴はとてもユニークだ。ホストになる以前、早稲田大学教育学部で学んでいた信長さんは、人と話すことが苦手で引きこもりがちな、いわば「コミュ障」な青年だった。体重は90kgあり、「ルックスにも恵まれておらず、女性にモテるタイプでは全くなかった」(信長さん)という。一般的なホストのイメージとは真逆の境遇だ。

 しかし、あるきっかけからホストの世界に足を踏み入れると、デビューから4カ月でナンバー1の座を勝ち取ってしまう。さらに驚くべきは、その方法だ。彼はビジネス書を読みあさり、書いてあることを次から次へと接客の場で実践したのだという。

 往々にして“絵に描いた”になりがちなビジネス書の知識をいかに成功に結びつけるか。『歌舞伎町No.1ホストが教える 選ばれる技術』(朝日新聞出版)を出版するなど、近年はビジネス書作家としても活躍している信長さんに、その神髄を聞いた。

●なぜコミュ障青年がナンバー1ホストになれたのか

「いやー、すいません、走ってきたから汗かいちゃって。汗拭いていいですか? ごめんなさい、おじさんみたいで。今日はよろしくお願いします!」

 そう言いながら取材の場に現れた信長さんを前にして、記者が最初に驚いたのは「ホストっぽくないな」ということだ。ネガティブな意味ではない。一流ホストという肩書から想像されるような高慢さやプライドの高さなどを一切感じさせず、その姿勢は快活で気さく、親しみやすい雰囲気が全身から醸し出されていた。とても「コミュ障」だったとは思えないが、信長さんは「ホストになる前は本当にダメダメだった」と苦笑する。

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