――本書にはお母さまから見た娘の被害、回復、時とともに変化してきた母娘の関係をつづった文も収録されていますね。

山本「子どもが被害に遭ったとき、『親は何をしていたのか』といわれることがあります。家族も影響を受けずにいられないのが性犯罪ですが、特に私たちの場合は、娘に加害したのが自分の伴侶ということで、母の混乱はより大きかったといえます。母の心情から私たちの葛藤までを伝えることで、性暴力被害の全体像がより理解してもらえればうれしいです」

 2005年ごろから山本さんは、性暴力や、被害者への看護ケアについての勉強をはじめる。それは自身で「回復を選択した」からこそ踏み出せた一歩だった。

――そこからの歩みがとても力強く見えましたが、性暴力について、その支援について知ることは山本さんにとって“力”となったのでしょうか?

山本「なぜ自分がこんな目に遭ったのか、性暴力とは何なのか……私は知りたかったんです。がん患者が自分の病はどういうもので、この検査は何のためのものなのかを知ろうとするのと同じです。自分なりに性暴力の問題がわかってきて、私が悪いからじゃなかったと思えたことは力になりましたが、それ以上のことがたくさん見えてきました。性暴力はいたるところで起きていて、その影響とともに生きている人がたくさんいて、でもそれを払拭(ふっしょく)しようと立ち上がる人たちもいる。人類はこの問題を解決できるのだろうか、ということも考えるようになりました」

――解決、できるんでしょうか?

山本「それはまだ私にもわかりませんが、幼少期から適切な性教育を受け、性だけでなく他者への適切な対応を学ぶ機会があれば社会は変わるでしょう。性暴力加害をする男の子には、友人グループのなかで関係を築くことがむずかしい子もいると聞きます。そんなときに女性の入浴をのぞいたり電車内で女性の体に触れたりすると、その高揚で無力感や孤独感が晴れた……これがきっかけで加害行為をくり返すようになっていくのがひとつの典型だと学びました。社会全体が、性暴力は性的欲求によるものではなく性を用いた支配・攻撃であると認識し、性暴力加害に適切な対応ができるようになれば変わる可能性があると考えています」

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