ER専門医 林寛之/自治医科大学卒。トロント大学附属病院救急部での臨床研修、福井県美浜でのへき地医療などを経て、現在、福井大学医学部附属病院総合診療部教授で、救急総合診療に当たっている
ER専門医 林寛之/自治医科大学卒。トロント大学附属病院救急部での臨床研修、福井県美浜でのへき地医療などを経て、現在、福井大学医学部附属病院総合診療部教授で、救急総合診療に当たっている

受験勉強が大変で、本を読む暇なんてない!」という声もあるけど、受験生である今だからこそ、読むべき本がある。アエラムック『AERA Premium 医者・医学部がわかる』では、医学部を志望する学生に向けて「今、読んでおくべき本」を、ER専門医の林寛之医師に教えてもらった。

■愚直に真面目であることが医師の必要最低条件

 ここで挙げた3冊は、医師を目指す人たちにぜひ読んでほしいものです。医学生というのは切れ者が多いように見えますが、実はそうでもありません。みんな愚直に努力し、面白い背景を持つ学生が多いんです。高校生活をエンジョイした人は、浪人生活で寝食を忘れ、必死に勉強したといいます。

「地理や古文など、一般社会で役に立つの?」と思われるかもしれません。ですが、ズブズブと知識を吸収できる時期に真面目にコツコツ努力する人材を医学部が要求している、ということをわかってほしい。なぜなら、医学部に入ったら高校とは比較にならないくらい多くのことを覚えなくてはならないからです。

 好き嫌いを言っていたら、患者さんに直接その不勉強が反映されてしまうのですから、愚直に真面目であることが必要最低条件なんです。

 最近は、詰め込み型の勉強で、とにかく優秀な医学生が増えてきたと思います。ですが、勉強に没頭してきただけの人が良医になれるかは疑問です。「勉強は抜きんでているんだけど、人間力がちょっと……」ということでは患者さんがかわいそう。

 私たちが相手にするのはさまざまな背景を持つ患者さんであり、異なる価値観を持ち、体や心を病んでいる人です。人を好きにならないで医師になろうなんて言語道断。それぞれの価値観を認め、コミュニケーションができる人になってほしいと思っています。

 ちなみに私が医師を目指すきっかけになったのは漫画の『ブラック・ジャック』。とにかく格好良くて、何でもできるところに憧れました。一見冷たそうでいて人間味にあふれ、優しいところも好きでした。

 自分が「なんとかしたい」というプライドを持つ原点が、『ブラック・ジャック』なんです。

■林寛之医師が選ぶ3冊

(1)『天才! 成功する人々の法則』(講談社)/マルコム・グラッドウェル著
1万時間練習や努力を続ければ、“その道のプロフェッショナル”になる「一万時間の法則」で一世を風靡した本。「少ない労力で最大効果を狙う効率主義はだめ。無駄で愚直な努力は「エピソード記憶」となって記憶力の定着にも役立つ。成功者は人並み以上の継続力があると実感できます」

(2)『モリー先生との火曜日』(NHK出版)/ミッチ・アルボム著
元教え子が難病を患った教授から最後の授業を受けるというノンフィクション。「患者の心の機微や人生の意義を学ぶ必読書。教授は『いかに死ぬかを学べば、いかに生きるかも学べる』と教えます。人間力をつけていい人生を送りたいと思わせてくれる本でもあります」

(3)『ONE PIECE』(集英社)/尾田栄一郎
「海賊王におれはなる!!!」と宣言する少年ルフィを中心とした海洋冒険漫画。「人生に必要なものがほとんど載っています。人は言い訳を作って行動に移さないことが多いから、ルフィの『なる!!!』という決意がいい! ただし壮大なストーリーなので受験生は読む暇があったら勉強を」

(構成/吉川明子)

※アエラムック『AERA Premium 医者・医学部がわかる』より抜粋