「確かに、史料が多い登場人物は楽だ。しかし、原作があると、誤りを指摘してもストーリーに影響がある場合は大きく変えにくい。『天地人』(2009年)では原作者の火坂雅志氏と意見交換しながらシナリオの修正を進めた」(小和田氏)

 史料が多い人物は何度も大河ドラマに登場し、さまざまな人物像が表現されている。徳川家康などがそう。史料が多ければ、イメージする人物像に合わせて、いいエピソード、悪いエピソードを集め、ドラマに生かすことができる。石田三成なども過去の作品では義理堅い人物にも、悪人としても描かれている。

「最も大変なのは、原作者がすでに死去している場合。『功名が辻』(06年)は原作者の司馬遼太郎氏が亡くなっていたため、変更はなかなか認められなかった。史料が豊富で、原作がない場合は最もやりやすい。『軍師官兵衛』(14年)は理想的だった」(小和田氏)

 かつて大河ドラマの多くは時代小説を原作としていたが、「龍馬伝」(10年)以降は原作者のいないオリジナル作品が続いている。小和田氏の話を聞き、「原作者、脚本家、時代考証担当者の意見がかみ合わず、混乱することを避け、原作のない題材を選んでいるのではないか?」と推測するが、どうだろう。ちなみに18年の大河ドラマは久々に原作がある「西郷(せご)どん」に決定している。原作者の林真理子氏と脚本家の中園ミホ氏とは共著もあり、旧知の仲なので心配はなさそうだ。

 ドラマを面白くしようとアイデアを絞り出す脚本家に敬意を表しながらも、史実に沿っているかどうかを見定めてきた小和田氏。時代考証という役割に使命感を持っているため、その目はおのずと厳しくなる。「大河ドラマを見て日本史が好きになったという方は少なくない。テレビの影響力は大きく、小中学生も多く見ている。明らかな嘘を放送してもらっては困る」との思いがある。
 
 長年にわたって大河ドラマに携わってきた小和田氏に、「今後、最も大河で描いてほしいと思う人物は?」と聞いてみた。「北条五代(早雲、氏綱、氏康、氏政、氏直)」とのこと。下剋上で戦国時代の幕開けを告げた北条早雲に始まる5人の生きざまに興味が尽きないらしい。「ちょっと地味かな?」と思わなくもないが、小和田氏のイチオシならば、見てみたい気がする。(ライター・若林朋子)