だが、行政や医療関係者の動きは鈍い。対策をとろうと国や自治体、医師会などが本格的に動き出したのは、わずか数年前だ。国は、「住み慣れた地域で最期まで」をスローガンに、在宅医療・介護の充実を軸にした「地域包括ケアシステム」の構築を急いでいる。

 神奈川県横須賀市は、その中でも比較的早い、2011年度から市や医師会が中心になり「在宅療養連携会議」を立ち上げ、対策を議論してきた。地域を4ブロックに分け、拠点病院を中心に在宅医を増やすための取り組みをしたり、市民に在宅医療に関する「出前講座」を開いたりしてきた。厚生労働省の担当者も「行政、医師会、病院が一体となり在宅医療の対策を進めるのは珍しく、今後のモデルケースになる」と評価する。

 ただ、こうした「先進的な自治体」は、どちらかというと少数派だ。関東のある地方都市のベテラン在宅医は、こう愚痴をこぼす。「地方都市では、いまだに高齢化問題への対応より、ハコモノ開発のほうに予算がかけられてしまう。役所幹部や議員、医師会の意識は、低い」。こうした自治体間、地域間の意識の差をどう縮めていくかが大きな課題といえる。

 一方で、「希望の光」も見えている。こうした超高齢社会の近未来図に危機感を抱き、行動をする「熱い人たち」の存在だ。横浜市では、在宅医と介護施設のケアマネが協力し、施設での看取りを実現させた。他にも、口から食べられなくなった高齢者にとろみをつけたお酒やおつまみを提供する「介護スナック」を始めた「三鷹の嚥下と栄養を考える会」、地域のキーパーソンや医師・看護師を中心に、様々なイベントや勉強会でゆるくつながっている埼玉県幸手市、認知症の高齢者を地域ぐるみで見守る福岡県大牟田市……。各地域で、2025年問題に立ち向かおうとする「芽」が出始めている。

 2025年に向け、これらを大きな「木」に育てていかないといけない。ただ、それは一部の「熱い人たち」だけでは、難しい。ピラミッドの頂点にいる「熱い人」たちだけでなく、ピラミッドの真ん中にいる「プチ熱い人」たちを巻き込んでいくことが大切だ。そのためには、あまり堅苦しい勉強会だけでなく、介護スナックのように少し「ゆるい」形のイベントをもっと増やしたほうがいいと思う。参加しやすい形にして、そこにプチ熱い人たちが加わってくれば、2025年問題は決して恐れることではなくなるはずだ。(朝日新聞記者・佐藤陽)