「最近の研究で、睡眠中は覚醒時に比べて、髄液が自由に脳内で往来できる空間が広がることや、前頭葉にアミロイドβを注入したときに、その排出が速やかであることが見いだされています。これまで睡眠と認知症の関係では、認知症の周辺症状の一つとして、睡眠障害や不眠症があるととらえられてきましたが、それだけではなく、近年は適切な睡眠の質と量の確保がアミロイドβの蓄積を防ぐことがわかってきたため、認知症予防の観点からも睡眠が重要になってきたのです」

 海外の研究で、65~80歳の女性を対象に、睡眠時間が認知機能低下リスクや、軽度認知障害(MCI)または認知症の発症リスクにどう関係しているかを調べた報告があります。睡眠時間が6時間以下のグループと、7時間のグループを比較したところ、認知機能テストが8点以上低下するリスクは6時間以下のグループが1.36倍と高く、同様にMCIまたは認知症を発症するリスクも1.36倍と高い結果となりました。短時間睡眠や不眠では、認知症の発症リスクが高まるといえます。

 こうした研究結果を見ると、たくさん睡眠をとれば、よりアミロイドβが排出され、認知症の発症を防ぐことができるのではと思う人もいるでしょう。しかし、この研究では、長時間睡眠もよくないことが示されています。8時間以上のグループは、それぞれのリスクが7時間のグループよりも高かったのです。

 なぜ長時間睡眠がよくないかについては、原因はわかっていませんが、清水医師は、「睡眠だけをよくしようと考えるのではなく、起きている時間の過ごし方と合わせた一日全体の生活習慣で考えるべきです」と話します。(取材・文/編集部杉村健)

※週刊朝日ムック『すべてがわかる 認知症2016』より