「ファベーラの星」と称されるシルバのような子どもたちに、スポーツの機会を与え普及させるのが、南米初開催を打ち出したリオデジャネイロの五輪・パラリンピック招致の目的のひとつだった。実際、大会組織委員会は「トランスフォルマ(転換)計画」と呼ばれる独自のプログラムを大会1年前から展開。複数のファベーラで子どもたちを対象に、フェンシングやレスリング、バドミントン、ラグビーなど、ブラジルでなじみの薄い競技を体験する機会を設けてきた。

 ブラインドサッカーをはじめとするパラリンピック競技も紹介され、ブラジル代表選手や学生ボランティアらの指導のもと、子どもたちが実際に目隠しをしてボールを蹴る体験やナショナルチームの試合の応援などを通じて、競技の楽しさを伝えている。

 だが、五輪・パラリンピックの開催を契機とする、こうした意義ある取り組みも、相次ぐ公立小学校の授業閉鎖によって、実施が滞るという残念な一面もある。教師の賃金未払いが原因のストライキが頻発しているためだ。五輪が開催される8月は、もともと休校だということだが、そうした社会背景がスポーツ大国をめざすブラジルのスポーツ政策にブレーキをかけるばかりでなく、大会後に期待される五輪のレガシー(遺産)にも少なからず影を落としている。

(文・高樹ミナ)