ところで、通算盗塁数の多い選手にはふたつの傾向がある。それはキャリアの浅い時期に爆発的に盗塁数を荒稼ぎするがキャリア後半は急速に尻すぼみするタイプと、ベテランになってからもコンスタントに盗塁数を重ねていくタイプだ。どちらのタイプになるかは選手によって様々な理由があるだろうが、ざっくり仕分けるならば、前者は圧倒的な身体能力に頼って若い頃は盗塁数が多いが、スピードの衰えとともに盗塁への意識も減っていく。そこには故障リスクの軽減や長打への傾倒といった事情も加味されることが多い。バリー・ボンズ(元ジャイアンツほか)やカルロス・ベルトラン(現ヤンキース)、ハンリー・ラミレス(現レッドソックス)など「40-40」達成者やあと一歩で達成だった打者たちがこのタイプだ。

 一方、コンスタントに盗塁を続けるタイプには、スピードだけでなく技術を兼備し、それを追及する職人型の選手が多いように思われる。イチローは間違いなくこのタイプだし、前述のモリターなどヒットを打つのがうまい巧打者たちにこの傾向がよく見られる。モリターなどはメジャー20年目の1997年に40歳ながら11盗塁を決めたように、故障した1984年と引退イヤーの1998年を除く19シーズンで2ケタ盗塁をマークしているのだ。若かりし頃のスピードが多少衰えようとも、投手の癖を見抜く技術などで補うことは可能だとイチローやモリターは証明している。

 盗塁に関しては、あと1個で日米通算700盗塁という節目にも到達するイチロー。メジャー3000安打には残り56本で、こちらに関してはまだ先の話になりそうだが、ここにきて潮目が変わる出来事があった。昨季の首位打者にして盗塁王のディー・ゴードンが、薬物規定違反で80試合の出場停止処分を受けたのだ。

 リードオフマンを失ったマーリンズは29日の試合でイチローを1番ライトに置き、ゴードンに替わる二塁手としてデレク・ディートリッチを起用した。ちなみに前日はイチローが守ったセンターはマルセル・オズーナが休養から戻り、代わりに主砲の正右翼手ジャンカルロ・スタントンがこの日は欠場だった。本来はイチローと同じ控え外野手のディートリッチが二塁で先発する機会が増えれば、イチローはクリスチャン・イエリッチを含めたレギュラー外野手トリオの誰かが休養日の際に先発できる可能性が高まることが予想される。

 つまり今後は盗塁もさることながら、安打を重ねる機会も多くなりそうだということ。今シーズン中の達成は難しいかと思われたメジャー3000安打が、思いのほか早く見られるかもしれない。今後のマーリンズの起用法にはぜひ注目しておこう。