――近年、「葬式はしなくていい」「安く、簡素でいい」と考える人が増える傾向にある。伝統的な葬式について隈さんはどう考えているのか。

隈:人それぞれが基本ですが、人をどう葬るかに日本文化のエッセンスが最も詰まっていると考えるので、伝統がなくなってしまうのは文化にとって極めてさみしいこと。そこは失いたくないと思います。ぼくの葬式は仏教でおこないます。戒名は梅窓院の住職がつけてくれるでしょう。
 
――元気なうちは自分の死や墓を現実のものとして考えにくいものだ。「死を考えたくない」とタブー視する人も多い。隈さんは死を覚悟することの重要性を語る。
 
隈:人間を幸せにするのはお墓だと思っています。単にお墓をつくればいいということではなく、お墓をデザインすると死の覚悟ができ、その覚悟が人間を幸せにすると、ぼくは考えるわけです。

 生きるって、さまざまなリスクがあるわけです。リスクがないように安心できる家を求めたとしても、リスクからは逃れられない。でも、「俺はいずれ死ぬんだから」と覚悟を決めた途端、生きるというリスクから解放されるような気がするんですよね。

 これからは、あらゆる意味で、自分の人生を自分自身でデザインする時代になってくると思います。企業が社会の中心にあった時代は企業が提示するデザインに従っていけばよかったのですが、そんな時代は過ぎ去りました。今後は自分をどうデザインするかによって、その人の価値が問われる時代になるでしょう。

 自分の人生を設計する中でのクライマックスは、「どう死ぬのか」をデザインすることです。そこをきれいに描ければ、人生っていろいろな失敗や回り道はつきものだけれど、最期はそれなりにピシッと人生のデザインが決まるでしょう。ぼくは仕事でいろんなことをデザインしていますが、自分の人生をデザインするなんて、ちょっとたまんないなと感じます。ぼくもちゃんと自分の人生をデザインして死ねたらなと思いますね。

(取材・文/上田千春)

※週刊朝日ムック『はじめての遺言・葬式・お墓』より

建築家・隈研吾
くま・けんご/1954年、神奈川県生まれ。79年、東京大学大学院建築学専攻修士課程修了。隈研吾建築都市設計事務所主宰、東京大学教授。自然素材や日本古来の素材を現代的な手法で生かした建築で知られる。「根津美術館」「第五期歌舞伎座」「ブザンソン芸術文化センター」(フランス)など、国内や海外で多くの作品を手がける。2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックの主会場となる「新国立競技場」の設計をはじめ、現在、国内外で約100のプロジェクトが進行している。建築家として活動するほか、東日本大震災後に東北地方の職人を応援するプロジェクト「EJP(East Japan Project)」を始めるなど、さまざまな形で復興支援にも取り組んでいる

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http://publications.asahi.com/news/602.shtml