着任して今年で2年。島に通いながら愛着を深め(村役場は鹿児島市にあるため、三島へは定期船で行かねばならない)、人脈づくり、アイディアを実現することに邁進し、2014年の夏にはかつて島を潤した硫黄に着目した新しいイベントを企画した。それが、島の硫黄から線香花火を作る「硫黄島花火プロジェクト」である。

「今、花火を作るのに使われている硫黄は石油精製の過程で出るもので、天然の硫黄を使ったものではありません。そこをあえて、硫黄島で取れる、不純物も含んだ硫黄を自ら採掘、精製し、硝石と炭を混合して和紙にくるみ、線香花火を作ろうと思いました。採取と精製、混合までは花火職員や研究者と私で行い、それ以降の工程を参加者で行うツアーを開催しました」。

 このプロジェクトには、大岩根さんの友人の花火職人であり猟師でもある大島公司さんも参画。線香花火の原料となる黒色火薬の原料となる炭も、大島さんの提案により三島村の黒島産のものとなった。これらの原料の調合を繰り返し、ついに安定した美しい花火にできる黒色火薬を完成させたのだという。

 昨年実施したツアーには、15名が参加。鹿児島から硫黄島までの船中では、硫黄採掘にまつわる硫黄島の歴史や、三島村の地形、地質など科学的な内容をのクチャーを行い、到着後は島内観光を行って、活火山として息づく硫黄島の特性を理解してもらった。続いて行われた花火づくりワークショップには島の住民にも参加してもらい、交流の機会も作ったという。花火づくり指導は、今や稀少となった国産の線香花火を作り続ける筒井時政玩具花火製作所(福岡県)があたった。

 ツアーの夜、島には歓声があふれた。「自分で作った花火は本当に美しい。こんな体験ができてうれしいです」と、口々に話す参加者。すぐに消えてしまう近年の外国産線香花火とは異なり、繊細で、光で編んだレースのような花が一瞬咲いては表情を変える様子を参加者は飽きることなく楽しんだ。

 かつて火器の発火剤として、戦いに使われた火薬から、人と島を結びつける線香花火へ。新しい現代の“硫黄ロード”が、今、作られようとしている。このところ、日本中の火山活動が活発化しているが、「この島はずっと火山と共生してきて、恵みをもらってきました。火山と共に生き抜いてきた島の知恵と、最新の科学を活用し、安全を確保しながら地球の息吹を島外の人に感じて欲しい。さらに火山、そして硫黄島と人々を結びつける試みを続けていきたいです」と、大岩根さんは語る。ジオパーク認定に向けて作られる新しい“硫黄ロード”は、世界のどこへもつながっていくのかもしれない。(島ライター 有川美紀子)

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三島村役場 
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