◆「2017年消費税10%」の呪詛

三井 日本の悲観的なシナリオについても教えてください。

中原 まあ、日銀が緩和政策をこのまま続けられるわけがありませんが、むしろ私は揺り戻しが怖いです。具体的には、株価暴落、円急騰、長期金利急騰。この金融緩和の副作用が怖いと思います。

三井 その悲観的な予測が当たってしまうと、今はバブルではないと言われていますが、どうなるのでしょうか。

中原 私は、株価は2万円で止まってくれればいいと思っています。
 たとえば、株価2万円から1万6000円に落ちたって、2014年とか、2013年の繰り返しという話になりますよね。でも、これがたとえば強気筋が言っている2万5000円まで急騰してから1万6000円まで落ちたらきついですよ。
 株を持っていない庶民だけでなく、株を買っているお金持ちまで含み損で今度はお金を使わなくなってしまいますから、消費が一気に冷え込んでしまいます。国民の年金資産であるGPIFも大きな含み損を抱えてしまうのではないでしょうか。

三井 国全体で将来への不安が増えるかもしれませんね。

中原 そのうえ、安倍さんは「2017年に消費税10%に増税する」とすでに宣言しているんですよ。普通に考えたら、増税すると言っているのに、企業の経営者が強気で国内で設備投資をやらないですよね。設備の更新や修繕、補修だけですよね。
 それは消費者層も同様で、2014年に8%の増税ですらこれだけ景気が冷え込み、さらに2017年に再増税するのに、財布の紐を緩めますか? 緩めないですよね。

三井 正直、2013年は確かにアベノミクスで株価は全体的に底上げになりましたけれども、2014年は個人投資家の買いは少なくて、GPIFに代表される官製相場ですよね。

中原 だから、2017年に増税しますというのが、逆に企業の経営者、あるいは消費者層の消費意欲を削いでしまった。だから、なかなか景気は力強く回復してこないと思います。
 そこで安倍さんが増税できるかどうかわからないですよ。ただ、2017年は日銀もそろそろ出口を探らなくてはならないわけですよ。官製相場は膨らめば膨らむほど反動が大きい。
 たとえば2009年からのエコポイントのときも、シャープも、ソニーも、パナソニックもエコポイントによる売上に甘えてしまい、構造改革が遅れて日本の家電は凋落してしまいました。
だから、官製によって作り出した需要というのはろくなことがありません。それが今回は株の買い入れで同じ轍を踏もうとしているのです。

三井 本当にそうですね。官制相場にROE革命を囃す買いも加わって、株価は一段高になるのではないかというイメージがあります。

中原 ROE革命について苦言を申し上げると、この胡散臭い革命は日本社会の長所を壊してしまいそうで怖いと思います。
アメリカの過去2年間の株式の買い需要の半分ぐらいは、自社株買いによるものです。アメリカ企業はROE(株主資本利益率)を上げるために、安易な自社株買いをやってきました。その自社株買いを除くと、アメリカの上場企業の収益率は2割程度低くなってしまうのです。
 国策だからと言って、日本企業がアメリカ企業と同じように、派手に自社株買いや配当を増やしたりすると、企業は後々成長のための投資ができなくなってしまいます。
そればかりか、安易に従業員の首を切ってROEを高めようとする企業まで出てくるかもしれません。
 日本は過去20年、企業が雇用を守ることによって低成長に甘んじてきたということ、その甲斐あって先進国で最も低い失業率を誇ってきたということをしっかりと認識しなければいけないと思います。

●中原圭介(なかはら・けいすけ):アセットベストパートナーズ代表 経済や経営だけでなく、歴史や哲学、自然科学など幅広い視点から経済や消費の動向を分析。「最も予測が当たる経済アナリスト」として評価が高く、熱烈なファンも多い。著書多数。

●三井智映子(みつい・ちえこ):フィスコリサーチレポーター NHK教育「イタリア語会話」でデビューし女優として活動。2013年、講談社より『最強アナリスト軍団に学ぶ ゼロからはじめる株式投資入門』を出版し、「美人すぎる金融アナリスト」として話題に。わかりやすい初心者向けの投資解説やセミナーを得意とする。