著書を持つエコノミストの中原圭介氏(右)と聞き手の金融アナリスト・三井智映子氏(左)
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中原圭介(なかはら・けいすけ):アセットベストパートナーズ代表
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三井智映子(みつい・ちえこ):フィスコリサーチレポーター NHK教育「イタリア語会話」でデビューし女優として活動
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 2014年の景気回復の遅れと失速と消費増税の断念、シェール革命に端を発したによる原油価格の下落などを、すでに2013年の段階で的確に予見していたエコノミストの中原圭介氏に、日本の金融緩和とそれが経済にもたらした影響、アベノミクス後の格差経済ついて語ってもらった。(聞き手=金融アナリスト・三井智映子氏)

*  *  *

中原 安倍首相の運がいいなと思うのは、原油価格が2014年の後半から落ちてきたことです。実質賃金は、2014年の後半から落ち幅が縮まってきました。もしも、原油安がなければ、アベノミクスは2015年でたぶん終わっていましたね。

三井 早いですね・・・。

中原 だって原油価格が半値になったんですよ。

三井 そうですね。普通に考えたら、想定できない下落ですよね。

中原 私は円高論者でも円安論者でもないですが、企業にとっても、国民にとっても、財政にとっても、居心地のいい為替水準があると思います。
 今の1ドル120円という為替水準はあくまで企業とお金持ちしか恩恵を受けない為替水準ですが、90円台半ばならば、それぞれにとってバランスが取れた、いい為替レートだと思います。
当然、企業収益は今より落ちますが、一方で国民の実質賃金はそんなに落ちないで済むわけです。
 たとえば円相場が、安倍政権が始まる前の80円ぐらいだったとしましょう。それで原油価格が半分になっていたら、ガソリン価格はレギュラーで100円ぐらいまで落ちるはずです。
 でも、そこから5割増しで円安になったので、今のレギュラーのガソリン価格は140円ぐらい。1ドル95円ぐらいであれば、国民の実質賃金もそんなに傷まないで済んだと思います。

三井 たしかに95円ぐらいでしたら、特に地方で車が移動手段の方は「うわ、ガソリン安くなったなと実感できるはずですよね。

中原 ええ、だからアメリカでは原油高が進んでいたとき、ウォルマートの売上が下がったんですよ。
 ウォルマートは郊外型の大店舗で、アメリカでは自宅から50キロ、100キロの距離でも、当たり前のように車を飛ばして買物に行くわけです。それが、原油高によってガソリン代が高くなり、消費者の足が遠のいたわけです。今回の日本の場合、円安が進んだから、ガソリンが安くなったといっても、そんなには安くなっていないと。

三井 ちょっと気持ち楽になったかなくらいという感じでしょうか。

中原 はい。ウォルマートと同じような郊外型の店舗は、日本でいうとイオンなんです。
 主婦で、ガソリン代が高かったら、やはり頻繁に買い物に行けないですよね。だからイオンは減益を続けているわけです。

三井 確かにイオンは2012年2月期から2015年2月期まで3期連続の減益を続けています。

中原 だからイオンの収益を見ていると、日本の一般庶民といわれる人たちの消費がわかるわけです。
 都心の銀座の三越とか、高島屋の売れ行きというのは、一般の消費とはかけ離れたところの話です。同じ百貨店でも、地方の百貨店へ行くと、売上は減っています。

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