日本人は睡眠薬への抵抗が大きいですが、睡眠薬は医師の指導のもとで適切に用いれば、依存性を抑えつつ睡眠リズムを回復させることができます。睡眠リズムが回復すれば自然に薬は要らなくなる人がほとんどです。市販薬で手に入る睡眠改善薬は、病院で処方される睡眠薬とはメカニズムが異なり、連用するとすぐ耐性ができて効かなくなります。「明日、重要な会議があって緊張して眠れない」といったときなどに市販薬を単発で用いるのはいいものの、うつ病が疑われるときには不向きです。適切な治療が遅れ、かえって状態を悪化させかねません。

──精神科やメンタルクリニックを受診するのはハードルが高いのですが……。

 もっと気軽に受診してもいいと個人的には思います。ただ、「ちょっと勇気が出ない」「受診すべきかどうか迷う」という場合は、まず会社の産業医や保健師などに相談してはいかがでしょう? また会社の福利厚生サービスで、電話やメールなどで医療の専門家に相談できる窓口を設けているところもよくあります。臨床心理士や公認心理士の資格を持つカウンセラーに相談してみてもよいでしょう(ただしカウンセリングは一般的に保険が適用されず実費になることが多い)。

──部下の心身の不調を疑っている場合、本人にそう伝えてもいいのでしょうか?

 関係性にもよりますが、部下が相談しやすい環境をつくることで、心身の不調が深刻化する前に医療機関などにつなげられる可能性があります。

 そっと別室に呼んで、優しい雰囲気で話しかけ、悩みを引き出す。心身に不調があるなと感じたら、まずは有給休暇を取って休息してみることを勧めたり、仕事の分量を調整して残業を減らしたり、会社の産業保健スタッフ(保健師、産業医、衛生管理者など)に相談することを促したりするとよいでしょう。

 症状が強い時はメンタルクリニックなどの受診を勧めてもよいと思います。たとえ、心身の不調で病院に行ったり休みを取ったりしても、会社での評価が下がるわけではないことも忘れずに伝えてあげてください。上司だからこそできる対応を取ることが大切です。

──正月うつ、だと思っていたら別の病気だった、ということはありますか?

 うつ病に似た症状が出る器質的疾患(身体に異常がある病気)があります。甲状腺疾患などのホルモン系の病気や、糖尿病、肝機能障害が悪化しても倦怠感が強くなり意欲の低下が出てきます。更年期障害(女性だけではなく男性にも存在します)でもメンタル症状がよく出ます。

 前年の春の健康診断で異常なしだとしても、1年もたてば体に何らかの異常が生じてもおかしくありません。メンタル系疾患だけではなく別の病気を早期に見つける意味でも、心身の不調が2週間以上続くようなら症状の該当する科の医療機関を受診しましょう。

奥田弘美:医師(精神科、精神保健指定医)、日本医師会認定産業医 羽根田真智