ただ、東芝はフラッシュメモリー事業を完全に手放す気はなく、分社化する子会社への外部資本受け入れは20%未満に抑える。そのため、子会社株の売却益は2000億円程度にとどまるとみられており、債務超過の懸念を払拭し切れない。そこで、その他の上場・非上場のグループ会社や、東芝病院といった不動産も売却候補として俎上に載せられているのだ。

●なお抱える4大損失リスク

 年度末まで2カ月を切る中での事業や資産の切り売りは綱渡りだ。しかし、その“綱”を渡り終えたとしても、東芝を待つのは“地雷原”だ。図4のように、東芝はさらなる経営危機のトリガーとなり得る、四つの損失リスク“爆弾”を抱えているからだ。

 一つ目は、中国での原発4基の新設プロジェクトだ。東芝の畠澤守原子力事業部長はこの案件について、工事の進捗状況を鑑みて「設計的、技術的な課題は小さい」と、昨年末の会見で説明した。

 しかし、中国の案件は今回の問題案件と同じく建設工事が遅れており、かねて社内で収益性悪化が指摘されてきた。事情に詳しい関係者によれば、「次に問題が火を噴いてもおかしくない」。

 二つ目は、原発事業会社であるニュージェネレーション(ニュージェン)だ。東芝は原発の新設案件を受注したいがために、英国の電力会社で原発建設計画があったニュージェンの買収に乗り出した。しかし、原発新設に電力会社の運営が重なる巨大プロジェクトに東芝の脆弱な財務が耐えられるのかという懸念は尽きない。

 三つ目は、液化天然ガス(LNG)の契約債務だ。13年、東芝は年220万トンのLNGを19年から20年間引き取る契約を結んだ。しかし、売り先が見つかっていない。調達契約をしたLNGが全く売れない場合の最大損失額は約1兆円にも上るという危機的状況だ。

 東芝は、20年間の契約を一括評価して一気に1兆円規模の損失を計上することは考えにくいと説明する。早ければ19年3月期からLNGの損失評価を始め、少なくとも翌1年分の損失引き当てを計上するという。ただ、監査法人との間で会計上の取り扱いについて議論が必要であり、東芝の言い分がどこまで通るのか判断が難しい。

 四つ目は、東芝が11年に約1300億円(出資比率60%、純負債を含む)で買収したスマートメーターメーカー、ランディス・ギアだ。東芝にはこの買収で発生したのれん代が1432億円残っており、ランディス・ギアの業績が計画を下回れば、そののれん代の減損を迫られる可能性が高いのだ。

●銀行に問う東芝救済の是非

 東芝の取引先銀行団は、前述した東芝の自助努力の状況を踏まえて、2月末までは融資継続を決めた。そして、表「巨額損失問題をめぐるスケジュール」にあるように、2月14日に東芝が発表する今回の原子力事業での巨大な損失額や再発防止策を確認した上で、3月以降の支援の可否を決める考えだ。

 ただ、前述した四つの“爆弾”が爆発すれば、事情が違ってくる。表「金融機関による東芝救済スキーム候補」あるような、劣後ローンや優先株の引き受け、債務の株式化(デット・エクイティ・スワップ)といった金融救済スキームの適用が想定され、いよいよ銀行も身を切る羽目になる可能性が高い。

 そのとき、銀行団は「本当に東芝を助けるべきなのか」をあらためて考えることになる。

 銀行は巨大な取引先の「大き過ぎてつぶせない」問題に手足を縛られている。「19万人の雇用を守る」「原子力や半導体などの重要な日本の技術を守る」……。銀行にとって東芝を救う建前はそうでも、本音では「東芝をつぶしたら多額の融資が返ってこなくなる」というそろばん勘定が働いている。

 しかし、そうした建前や本音による企業救済がネガティブな部分最適を生み、日本全体を考えたときに、起こるべき産業の構造転換やイノベーション、人材のシフトを阻害している面は否定できない。

 一方、そうした事情は考慮せずとも、融資引き揚げを考える銀行も一部出てきた。東芝の信用リスクにこれ以上付き合い切れないと思い始めているのだ。ここに東芝のさらなる巨額損失が重なれば、そろばん勘定だけでも東芝から離反する銀行が増えるだろう。

 四つの“爆弾”を抱えている限り、東芝の経営破綻リスクは消えずにくすぶり続けるのだ。(文/「週刊ダイヤモンド」編集部)