昆虫写真家の海野和男さんとの対談がきっかけで、リコーのデジタルコンパクトカメラを使うようになったという柳生さん。とくに肉眼では見られないマクロの世界が気に入っている。毎日更新しているブログ「柳生真吾の八ヶ岳だより」は、ほとんどリコーGX200で撮影している
昆虫写真家の海野和男さんとの対談がきっかけで、リコーのデジタルコンパクトカメラを使うようになったという柳生さん。とくに肉眼では見られないマクロの世界が気に入っている。毎日更新しているブログ「柳生真吾の八ヶ岳だより」は、ほとんどリコーGX200で撮影している
野草好きに人気が高いレンゲショウマは下を向いて咲く。雨上がり、コンパクトデジカメの接写力を生かしてノーファインダーでとらえた
野草好きに人気が高いレンゲショウマは下を向いて咲く。雨上がり、コンパクトデジカメの接写力を生かしてノーファインダーでとらえた
柳生さんが「落ちたての落ち葉」とよんでいる新鮮な落ち葉をローアングルで撮影。後ろは代表を務めている八ヶ岳倶楽部
柳生さんが「落ちたての落ち葉」とよんでいる新鮮な落ち葉をローアングルで撮影。後ろは代表を務めている八ヶ岳倶楽部
頭部に冠状の突起を有する体長40~80ミリと大型のミヤマクワガタ。八ケ岳の庭でクリの木を登っているところをとらえた。「見えていて見ていないものがたくさんある。見つけようと思うと何かある」と柳生さんは毎日の撮影を楽しんでいる
頭部に冠状の突起を有する体長40~80ミリと大型のミヤマクワガタ。八ケ岳の庭でクリの木を登っているところをとらえた。「見えていて見ていないものがたくさんある。見つけようと思うと何かある」と柳生さんは毎日の撮影を楽しんでいる

――もともと写真を撮るのはお好きじゃなかったとか。

 ええ、写真を撮るより目に焼き付けようという主義だったんです。それが8年間キャスターを務めた「趣味の園芸」のテキストでコラムを連載することになり、そこに載せるために必要に迫られて写真を撮るようになりました。友人のカメラマンのアドバイスを受けて、ニコンF100とレンズは17から200ミリまでF2.8でとおしてズームレンズ4本をどかっと買いました。とても初心者とは思えない買い方ですよね(笑)。でも八ケ岳や花、鳥、昆虫と自分が撮りたい自然をカバーするには、標準、広角、望遠、マクロの全部が必要になってくるんです。

 いきなり大きな買い物をしたから、元をとらなきゃいけない。それで毎日、自分の庭を36枚撮りフィルム1本分撮ろうと実行しました。今ぼくが住んでいるのは八ケ岳の山荘で、30年前に父(俳優・柳生博)が買い求めたものです。当時は荒れた藪(やぶ)しかなかったのですが家族で少しずつ開拓していって、林や緑が豊かな土地になりました。庭はふつうに散歩すると10分ぐらい。でも36個の被写体を探して歩くと1時間も2時間もかかる。そういう訓練を1年間続けたのが、花を見つめ直すいいきっかけにもなりました。

――銀塩一眼レフから、今はリコーGX200というコンパクトデジカメ。”進化“の仕方がユニークですね。

 コンパクトデジカメ特有の1センチ接写にはまったんです。驚異的に撮れますよね。さっきぼくは「目に焼き付けたい」と言いましたけれど、1センチ接写で撮れる花の世界は肉眼ではなかなか見られない。長く園芸をやっていて、改めて花の魅力を教えられたんです。きっかけは、昆虫写真家の海野和男さんと対談して、一緒に蝶を撮りにいったことです。海野さんがリコー キャプリオGX8を持って、蝶を追いかけていきなり走り出した(笑)。撮るときも腕を伸ばしてめちゃくちゃにシャッター切っているみたいで、ファインダーなんかのぞかない。それでもあとから見せてもらうときちんと構図になっているんですね。感激して、対談を終えて帰るその足でGX8を買いに行きました(笑)。そこからステップアップしていって、このリコーGX200にたどり着きました。剛性というのか、持ったときの感触が気に入っています。広角マクロで昆虫や蝶をクローズアップでとらえて、その向こうに八ケ岳の光景が広がる。ピントの深さと接写の面白さが味わえます。

 ぼくにとってカメラとは探偵の虫眼鏡みたいなものなんですよ。「なにか面白いものはないかな」と探していくための道具です。今はこれと鳥の撮影用にニコンD200と300ミリ望遠レンズを使っています。DXフォーマットだから450ミリになり、デジタルは連写してもコストが気にならないので助かっています。

――本誌読者に花のマクロ撮影のアドバイスをお願いします。

 ぼくの園芸の世界でいうと、園芸の腕が一段ポンと上がるのは、花が「生き物」だと自覚した瞬間からなんです。花は喋らないし動かない。だからつい「置物」のように錯覚しがちなんですが、植物も当然のごとく生きているんです。たとえば犬がエサを食べなくなると、病気じゃないかと心配しますよね。それと同じで花も生き物の目線で見ると、「この花にはこんな意外な面があったんだ」と感激したり、しなくちゃいけないこと、やってあげたいことが自然とわかるようになってくるんです。

 たぶん写真を撮ることも同じじゃないでしょうか。花を置物でなく、生き物として撮ることが大切だと思いますね。ぼくは世界を見る窓は自分の庭にあると考えています。その庭を見るための道具がカメラ。デジカメの後ろのモニターは小さいけれど、世界を知るには十分です。

※このインタビューは「アサヒカメラ 2009年4月増大号」に掲載されたものです