それを前提にすれば、2020年夏のオリンピック開会式までに、汚染水問題を解決しておくことは、至上命令である。そのためにはトリチウムを含む汚染水処理問題に今決着をつけなければならない事情がある。汚染水を薄めて海に流すと言っても、大量の汚染水を漏出すことなくタンクから移し、大量の水に混ぜて薄めて放出するには、それなりの設備が必要だし、時間もかかる。準備だけでも2年くらいかかるという予測もある。ということは、もう今がギリギリのタイミングだ。

 経産省は、元々薄めて流す確信犯だったが、それは表に出さず、静かにこの日のために準備を進めてきた。15年から有識者会議で5つの処理方法を検討。「海洋放出」の他に、「水素に変化させての大気放出」「蒸発」「地層注入」「地下埋設」なども検討対象に入っているかの如く振る舞った。しかし、海に流す方が安いに決まっている。結局「薄めれば安全」ということを専門家に言わせ、一番安いという試算も併せて出して、希釈して海洋放出という結論に持って行った。

 もちろん、最初からそれに決めましたというと、地元、特に漁業者の反発は必至だ。世論も批判するだろう。それがわかっているので、まずは、丁寧に皆さんの意見を聞きますという態度を示すことにした。それが今回の公聴会だ。原発関連ではお決まりの手順である。

●素朴な疑問には答えず疲れを待つ作戦

 そもそも、海洋放出は、原子力規制委の方針でもある。規制委の前委員長田中俊一氏は、早くから、その方法を示唆した。安倍総理の五輪誘致を応援する意味があったのかどうかはわからないが、問題の安倍発言直前の13年9月2日の日本外国特派員協会での会見で、田中氏は、「必要があれば、(放射性濃度が)基準値以下のものは海に出すことも検討しなければならないかもしれない」と述べている。まだ「検討」「かもしれない」としか言っていないが、それを文字通り「検討の可能性」だととるのはあまりにナイーブだろう。この時から田中氏の腹も決まっていたと考えるべきだ。「薄めれば安全」という考えは、安倍発言の基盤でもある。「アンダーコントロール」と安倍総理が自信を持って言えたのは、田中氏のサポートがあったからだと言っても良い。

暮らしとモノ班 for promotion
大谷翔平選手の好感度の高さに企業もメロメロ!どんな企業と契約している?
次のページ