お笑いを見るような感覚で『ちびまる子ちゃん』という作品を読み返すと、そのナレーションのツッコミフレーズの切れ味の鋭さに驚かされる。登場人物のちょっとした言動の中に潜むおかしさや矛盾点をつかみ、ツッコミをいれていく。その手際の良さはテレビに出ているような一流のツッコミ芸人と比べても見劣りしない。子供の頃から落語やお笑いが大好きだったさくらは、卓越した笑いのセンスを持っていたのだ。

『ちびまる子ちゃん』はもともと、作者自身が自分の小学生時代を振り返る一種のエッセイ漫画のようなものとして始まっている。初期は特にそのテイストが濃く、作者が家や学校で経験した具体的なエピソードが中心に描かれていた。さくらがエッセイ漫画を描き始めたのには1つのきっかけがある。それは『ちびまる子ちゃん』の単行本4巻に収録されている「夢の音色」という短編で描かれている。

 高校生だったさくらは漫画家になることを夢見て漫画雑誌に作品を投稿していたのだが、なかなか芽が出なかった。その頃は正統派の少女漫画を描いていた。そんなある日、学校で作文のテストが行われ、さくらは95点という高得点を獲得した。教師は彼女のことを「現代の清少納言」と褒め称えた。

 今まで教師に褒められたことなど一度もなかったさくらは、適当に書き流した作文を激賞されたことに衝撃を受けた。そこで初めて、自分にはエッセイの才能があるのだからエッセイのような漫画を描けばいいのではないか、と思いついたのだ。この路線に転換したことで、さくらは漫画賞に入賞して、漫画家デビューを果たした。そして、エッセイ漫画路線の『ちびまる子ちゃん』で初の連載を勝ち取り、そこから伝説が始まることになる。のちに『もものかんづめ』をはじめとするエッセイも高く評価されたのは、彼女が紛れもなくエッセイの名手だったからだ。

 漫画も後半に進むにつれて、エッセイの要素が減っていき、キャラクターが増えてフィクション要素が強くなっていくのだが、漫画としての面白さの本質には大きな変化はなかった。誰もが共感できる普通の女の子の日常を描いたからこそ、この漫画は幅広い支持を得ることに成功した。さくらももこという漫画家の早すぎる死を日本中が悼んでいる。彼女は名実ともに「現代の清少納言」にふさわしい存在となった。(ラリー遠田)

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